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番外編・中村回 その2

唯衣は、けっこう面白い子だった。

恭子とは違ったタイプで、ちょっとネガティブなところもあったが、サバサバとしていて、あたし自身がサバサバしてるもんだから、一緒にいて楽なタイプだった。

唯衣と一緒に友達を増やしてみたり、サークルに入ってる子たちに連れられたりして飲み会とかにも行ったりもした。それでも唯衣と一緒に行動していることが多くて、いつの間にかあたしたちは二人でセットで見られることが多くなっていた。

唯衣は、仲良くなると本性を表してくるタイプで、内弁慶というやつ。酔ったりなんかした時には、膝丈くらいのスカートを履いているにもかかわらず、足を広げて座っちゃったりもするくらいにおっさんくさい面もあった。それでもそんなところも好印象になるのか、男子からの評価もまぁまぁ高いと言えた。現に、あたしを使って唯衣の連絡先を聞いてくる人もいたくらいだ。でも唯衣は、男子が苦手なのか、『アハハ』と苦笑してから、社交辞令程度の感覚で連絡先を交換していた。


そんなこんなで唯衣と一緒に楽しんだ結果、あっという間に三年になってしまった。


まわりは就職活動だなんだと言っているが、あたしもそろそろ決めないといけない時期になってきた。

そんなある日のことだった。

二人で昼間から飲もうということになり、大学の講義をいろいろとサボって居酒屋に来ていた時だった。


「唯衣はさ、就職どうすんの? 就職すんでしょー?」

「あー、うーん、どうだろ。結構ぼんやりしてるけど、アパレル系もいいかなって」

「あー唯衣ってばおしゃれだもんね。たくさん服持ってるし」

「そんなに持ってないって。組み合わせでそう見せてるだけだってば」

「なんも謙遜することないじゃん。私、オシャレさんですから!! って言って回ればいいのに」


あたしが笑いながら言うと、唯衣は照れながらファジーネーブルを一口飲んだ。


「じゃあ香恵もおしゃれしてみればいいのに。綺麗なんだから、おしゃれとかしてみれば?」

「あたしはいいよ。別に男ウケしたいとか思ってないし」

「ふーん。そういえばさ、好きな人とか、いないわけ?」

「ん?」


珍しい。

唯衣がこういう恋愛トークを持ち出してくるなんて滅多にないので、あたしは普通に驚いた。


「別に。一応理想の人はいるよ」

「い、いるんだ」

「って言っても、まぁ恭子の彼氏なんだけどね。あたしもあんな人と付き合えたらいいなぁって思うだけで、別に好きとかっていう感情はないかな」

「へぇー」

「そういう唯衣はいないの?」

「わ、私!?」


なぜそこであたふたする?


「私は、んー……香恵みたいな人なら好きになれるかも……とか言ってみたりして」

「あたし? そう来たか……」


まさか唯衣にそっちの気があったなんて……

とはいえ、そういう感じの人たちは大学にもいた。今さらドン引きっていうのはないけど、普通に返答に困る。


「あたし、付き合うなら男の人とがいいなぁ」

「だよねー。まっ、冗談だけどね」

「なんだよー。ちょっと考えちゃったじゃんかー」

「えへへー。じゃあさ、もし私が男だったら、香恵は付き合ってくれる?」

「唯衣とは気が合うからな。付き合っても上手くいくと思うな」

「ってことは?」

「付き合ってもいいかな」

「マジで!?」

「うおっ! 男だったらの話だぞ?」

「アハハ。ごめんごめん。普通に嬉しかったから喜んじゃった」

「普通にビックリしたわ」


アハハと笑いながら、楽しく酒を飲んだ。

そして飲み放題の時間も終わり、割り勘で会計を済ませて居酒屋をあとにした。


「さて、そろそろ帰るか」


外は日が暮れかけていて、夕方に入ろうかどうしようかという時間だった。

でも今日休んだ分、明日の講義はサボらずに出ようということを決めていたので、早々と家に帰ることを居酒屋に行く前から二人で決めていた。


「か、香恵!」


と、駅まで歩こうとした時、香恵に呼び止められた。


「どうした? 駅まで行くぞ?」

「あっ、えっと、か、カラオケ! カラオケ行かない!?」

「カラオケ?」

「一時間だけ! ちょっと歌いたい気分なの!」

「まぁそこまで言うなら」

「ホントっ!?」

「嘘ついてどうすんだよ。ほれ、行くぞ」

「よしっ」


なんかやけに気合を入れた唯衣とカラオケへと向かった。

部屋に入ってから、上着を脱いでハンガーにかける。と、ドアを閉めて、立ったまま動かない唯衣。


「唯衣?」


声をかけると、深呼吸をした唯衣が真剣な顔で私を見た。


「か、香恵。聞いて欲しいことがあるの」

「ん? 歌?」

「歌じゃなくて!」


なんだろ? とりあえず私は椅子に腰を下ろした。


「お、驚かないで聞いて欲しいの」

「今さら何を驚くことがあるんだよ。あたしと唯衣の仲だろ?」

「じゃあ言うからね? 絶対驚かないでよ?」

「はいはい」


なんだ? 妙に念を押すなぁ。

何を言うのかと思っていると、唯衣が自分の頭に手をかけた。そして髪を掴んで、そのままずり落とした。


「え?」


あたしは呆然と見ていた。

右手にさっき持ってきたジュースが入ったグラスを持っていたのだが、その存在を忘れる位には驚いていた。

唯衣がずり落とした髪の下からは、その四分の一ほどの長さの髪で覆われた頭が出てきて、まだ明るい部屋の中に、さっきまでの唯衣とは違う唯衣が現れた。

そして真っ赤になった顔を上げた唯衣は、こう言った。


「私、実は男なんだ」



ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけるとウルトラハッピーです。


というわけで、唯衣の正体バラシ回。

このあとは、本編での瑠璃ちゃんとの会話につながります。

番外編その3は、その後の話へと続きます。


次回もお楽しみに!

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