カレーVSカレー
「おー」
くるくる。
「おー」
ぺたぺた。
「おー」
ふりふり。
「あははー」
豊平峡ダム名物(?)の豊平峡温泉はダムの駐車場から少し山を下りたところにあり、車でちょっと走ったとこにある。少し昼時をずらして行ったのだが、そんなことはお構いなしといったようで、屋内は満員御礼だった。順番待ちになるのだが、それでも30分は余裕で待つとのこと。でもせっかく来たのだから食べずに帰るわけにはいかない。
ということもあって、とくに急いでいるわけではないので一時間だろうが二時間だろうが待つことにした。
メニューを注文してから待っている間、ガラス張りになっている厨房の中でナンを焼いているのを見ていた。
ボウルに入れられた生地を丸めて取り、それをめん棒で器用に例の形に伸ばし、それに油を塗って、窯の中にペタペタと貼り付けているのをほげーっと見ていた。
その作業をしているのが本場インド人っぽくて、すごい気さくで、時々手を振ったり無駄にナンを振り回していた。ナンと華麗なナンさばき。
そんなこんなで待つこと一時間弱。
三人で食べ物しりとりをしていると、名前を呼ばれたので速やかに席についた。
席についてからも少し待ったが、さっきよりは待たずしてカレーにありつけた。
カウンターへ取りに行って、席へと運んだ。俺がチキンマサラ、恭子がナスとトマトのカリー、瑠璃ちゃんがひよこ豆のカリー。そして一人一枚ナンがついてきた。
「ナンだこのでかさは!」
「「……」」
俺の渾身のダジャレも、二人には通じなかったようで少し冷めた目で見られた。
そろっていただきますをし、各自ナンをちぎってつけパンしていく。
うん。問題なく美味い。辛すぎることもなく、瑠璃ちゃんを見ても美味しそうに食べているから問題ないだろう。
『最高のスパイスは空腹』というのもあって、三人ともほぼ余計な会話をせずに淡々と食べた。俺だけはナンをおかわりした。
「ごちそうさま」
「美味しかったわー」
「だな。……って瑠璃ちゃん?」
お腹をさすっている恭子の横で、妙に真剣な顔をしている瑠璃ちゃん。
不思議に思って声をかけると、瑠璃ちゃんがこちらを見て答えた。
「カレー美味しかった」
「ん? そっか。それは良かった」
「私のカレーより美味しかった」
「そりゃお店のカレーだし本場インドっぽかったしね。でも瑠璃ちゃんのカレーも美味しいじゃん」
「そうそう。家庭的で良いと思うけど」
俺と恭子がそう言ったのだが、どこか闘争心が芽生えてしまったらしい瑠璃ちゃんには効果はいまひとつのようだった。
車に乗ってもそれは変わらず、助手席に座った恭子と目を合わせると、恭子は肩をすくめた。
「美味しいカレーを作りたいの?」
「うん」
瑠璃ちゃんの人生の方向性が見えないなー。
どうしたらいいんだろ。
「正親。スパイスとか買ってあげたら?」
「スパイスぅ? 恭子使ったことあるか?」
「使ったことないけど、あの味を出すにはスパイスからカレーを作らないといけないでしょ。スーパーで売ってるカレールーじゃ満足できないってことなんじゃないかな」
恭子の言うことはごもっともだ。むしろ大正解だ。
でもお店で食べるカレーは美味しいけど、さっき言ったように家庭的なカレーもそれはそれで美味しいものだ、と俺は思う。
瑠璃ちゃんにはカレーマスターよりも家庭的なカレーを作って欲しいと思ってるんだけどなぁ。
「スパイスって使ったら美味しくなるの?」
恭子の話を聞いていたらしい瑠璃ちゃんが後部座席から身を乗り出してきた。
「美味しくなるだろうけど、無理に使わなくてもいいんじゃない?」
「正親さんは美味しいカレー食べたくないの?」
「食べたくないわけじゃないけど、瑠璃ちゃんのカレーだって美味しいからいいと思うよ」
「さっき食べたやつのほうが美味しかったもん」
ぐぬぬ。
「でも瑠璃ちゃんのだって美味しいって。味噌ラーメンと醤油ラーメンだって、同じラーメンだけど味は違うけどどっちも美味しいでしょ? そういうことだよ」
「たしかに……」
そう言って頬に手を当てて考える瑠璃ちゃん。
そこへ恭子が後ろを振り向いて言った。
「正親にとっては瑠璃ちゃんの愛が一番のスパイスなんだよ。だから瑠璃ちゃんは自分のカレーに自信を持ったらいいよ!」
恭子の言葉に考えを改めたのか、いつもの瑠璃ちゃんらしい笑顔を見せた。
さすが恭子だ。完全に瑠璃ちゃんの姉のようになっている。これも二人の仲の良さがなせるものだのだろう。
「よーし。じゃあ帰るかー」
「しゅっぱーつ!」
「あ、帰りに買い物していってもいい?」
「車だもんね」
ということで、帰りに見つけたスーパーで買い物をして帰りましたとさ。
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