雨だね
「あー…」
「うわー。こりゃ帰れないな」
「どうする?」
「どうせ最近続いてるゲリラ豪雨だろうから、しばらくしたらすぐ止むだろうし、ここで待ってようぜ」
「そうしよっか」
掃除当番で遅くなってしまい、一人で帰ろうかと思っていたら、ヒロトくんも掃除当番だったみたいで、たまたま廊下で会ったので一緒に帰ることにした。
でも、玄関で靴を履いている時にドバーって雨が降ってきてしまい、足止めされてしまった。
私たちは玄関の靴箱の前の段差に腰を下ろして、並んで座る。
「早く止むといいね」
「だな」
外で雨の音が強まっている。
外を見ようとすると、ヒロトくんの横顔が見える。
こうやって並んで座って思ったけど、ヒロトくんと二人きりって久しぶりな気がする。
「なんかこーゆーの久しぶりだね」
「は? 最近雨ばっかじゃん」
「そーじゃなくて、ヒロトくんとこうやって話すの、久しぶりな感じ」
「まぁいつもは怜央かキララがいるからな。あと亜里沙も」
「そうだよねー」
「まぁ俺がキララと付き合い始めちゃったからさ、みんな気を使ってくれてるんだと思ってんだ。ありがとな」
「いいって。キララちゃんも嬉しそうだし、全然良いことでしょ」
ヒロトくんが『まぁな』と言って、照れたように頭をポリポリとかいた。
ヒロトくんとキララちゃんのラブラブっぷりは、玲央くんが見てて恥ずかしがるくらいだから、よっぽどなんだと思う。
でもキララちゃんと一緒にいるときでも、ヒロトくんは周りを見てて、ちょっとキララちゃんより大人に見える。
「そーゆー瑠璃は好きな人とかいないのかよ」
「えっ!?」
「その反応はいるんだな」
「なっ、なんでいきなりそう言うこと聞くのさ!」
「おー。瑠璃が慌てるってことはよっぽどだな。ハハハ」
「馬鹿にしてー…」
何も言ってないのに、ヒロトくんは全部お見通しのような言い方で言った。
そんなに顔に出てるのかなぁ?
「まぁ瑠璃のことだから、怜央のこととか好きなんだろ?」
「な、なんでそう思うの?」
「いや、何年一緒にいると思ってるんだよ。見てりゃわかるっての。告白とかしねぇの?」
告白…
まぁ確かに怜央くんは好きだ。
でも怜央くんと付き合いたいと思っているわけじゃない。
ただ好きなんだ。
だからどうしたらいいかわかんない。
「無理に告白しろって言ってるわけじゃないけどさ」
「付き合うって何したらいいかわかんないし。私はキララちゃんみたいに明るくないし、積極的にもなれないもん」
「キララはちょっとズレすぎなんだよ。あれは普通じゃないと俺は思うな」
「でも怜央くんと一緒にどっかに行きたいっていうよりも、みんなで遊んでたほうが、楽しい、かな」
「楽しいかー…」
ヒロトくんは、玄関の天井を見上げた。
私もなんとなく天井を見上げる。
「そもそも付き合うってなんなんだろうな」
「ん?」
「俺は瑠璃とか怜央みたいに頭良くないからさ、難しいことは言えないけどさ、俺はキララと一緒にいたいって思ったから付き合ったわけよ。で、高校だって同じところに進むつもりで今勉強してるし、もし学校が違うところになったとしても、俺はキララのことが好きだし、まぁ付き合い続けるとは思うな」
「うん」
「だからさ、そんなに難しく考えることはないんじゃないかと思うわけ。だって俺たちまだ中学生だぞ? 今から大人ぶって、難しいことしようとするよりも、今は子どもなりに楽しんで好きなことしていったほうが自分のためだと思うんだ」
なんか正親さんもそんなことを言ってた気がする。
『大人には大人の付き合い方がある』みたいな。
「だから、さっさと怜央に告っちゃえよ」
「えっ!? いや、それはちょっと…」
「…やっぱり怜央が好きなんじゃん」
「あっ…」
やられた。
これが誘導尋問というやつか。
「俺は玲央と瑠璃が付き合い始めたら嬉しいけどなー。キララも喜ぶだろうし。『ダブルデートしようよ!』とか言いそう」
「まだ付き合ってもいないのに…」
「まぁ付き合うとか付き合わないとかは置いといてさ、今度どっか遊びに行こうぜ。怜央も亜里沙も誘って五人でさ。最近キララとばっかり行ってたから、たまにはみんなで行きたいわけよ」
ヒロトくんが私を見て、ニカッと笑う。
身長とかもいろいろ変わったけど、こうやって笑うと、なんかあんまり変わってない気がする。
私もその笑顔に応えるように笑って答えた。
「うん!」
そのヒロトくんの向こうでは、雨が上がって、晴れ間が差しているのが見えた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
瑠璃ちゃんとヒロトくん回でした。
この組み合わせで丸々一話をやるのは・・・初めて?
次回もお楽しみに!




