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お花見と散歩と笑顔

サッカー部の合宿が終わった次の日。

俺は瑠璃ちゃんと一緒に近所の公園に来ていた。

お花見とまではいかないけど、散歩がてら桜でも見ようということになった。

どこか遠くに行っても良かったんだけど、瑠璃ちゃんが近くでもいいということで、こうして桜を見に来たわけなのだが…


「ぜんぜん桜咲いてないね」

「ねー」


公園はいつも通りの公園で、本来ならば桜が咲いているはずの木も、つぼみがついているだけで、ただの木にしか見えなかった。

例年以上の冷え込みのせいで、桜の開花が遅れていた。

道東のほうでは昨日も雪が降ったらしい。そりゃ桜も咲かないわ。停滞前線のせいで、この寒さももうちょっと続くんだとか。桜前線もしばらくは停滞かな。

近所を散歩するということで、二人ともパーカーを着て『お揃いー』って瑠璃ちゃんが言ってたけど、パーカーだとちょっと寒い。もう一枚着てきてもよかったかも。


「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ。このあとどうしよっか?」

「買い物でも行く?」

「冷蔵庫の中、そんなに物無かったっけ?」

「牛乳がちょっと入ってなかった」

「じゃあ買いに行こっか」

「うんっ」


瑠璃ちゃんと手をつないで歩き、近くのスーパーまで行くことになった。

こんな予定も何もないただの散歩なのに、瑠璃ちゃんは終始楽しそうだ。ゴールデンウィークなのに、ちょっと申し訳なくも感じる。


「なんかごめんね」

「なにが?」

「いや、ゴールデンウィークなのにどこにも連れていけないし、お花見行こうとしたら結局桜咲いてなかったし」

「でも楽しいよ?」

「楽しいの?」

「うんっ」


そう言って笑顔を見せる瑠璃ちゃん。

なんていい子なんだ。

いやいや。これじゃ親としてどうなんだ。子どもに気を使わせるなんて親としてどうなんだ。


「正親さんだってサッカーで疲れてるでしょ? 私は正親さんとおうちでのんびりしててもよかったんだよ?」

「いやいやいや。瑠璃ちゃんだって、あそこ行きたいとかここ行きたいとかあるでしょ?」

「うーん…」


そう言って首を傾げる瑠璃ちゃん。

はたして瑠璃ちゃんには欲というものはないのだろうか?

いい機会だし聞いてみるか。


「瑠璃ちゃんって欲しいものとかないの?」

「欲しいものー? 洋服も買ったばっかりだから大丈夫だよ?」

「あー、そうじゃなくて、なんて言えばいいのかなぁ…あれがしたいとか、これがしたいとか、あそこに行きたいとか、あれが欲しいとかっていうのを瑠璃ちゃんから聞かないからさ」

「んー…」


そう言ってちょっと考えこむ瑠璃ちゃん。

ちょっと難しかったかな。

と思っていると、瑠璃ちゃんがこちらを見た。


「私は、正親さんとか恭子ちゃんとか香恵ちゃんとかと一緒に何かしてる方が楽しいです」

「瑠璃ちゃん…」


物欲じゃなくて、人間関係のほうが大事ってことだよな?


「だからこうやって正親さんとお散歩してるだけでも、私は楽しいよ。んふふー」


楽しそうに笑みを向けてくる瑠璃ちゃん。

そんな瑠璃ちゃんを思わず抱きしめた。そして抱きしめながら思う。

はぁ。俺はこの笑顔に何度救われたことか。

瑠璃ちゃんがこうやって笑ってくれるだけで、恥ずかしながらも瑠璃ちゃんの『親』としてやってこれたのかもしれない。

これが瑠璃ちゃんじゃなかったとしたら、ここまでうまくはいかなかったかもしれない。瑠璃ちゃん様様だ。


「あっ!」

「うおっ! ご、ごめん!」


急に瑠璃ちゃんが叫んだ。

そ、そりゃ道端で抱きつかれたら誰だって叫ぶわな。ごめんなさい。


「正親さん! 桜咲いてる!」

「へっ? 桜?」

「ほらあそこ!」


そう思って、瑠璃ちゃんが指さす方向を見ると、一軒家の庭に立つ木に、ピンク色の桜が綺麗に咲いていた。

ダダダーっと走っていく瑠璃ちゃん。それを慌てて追いかける俺。

そして二人で走って桜の元まで駆け寄った。


「おー。咲いてるところは咲いてるんだなー」

「桜見れて良かったねー」

「そうだね」

「んふふー」


楽しそうに笑う瑠璃ちゃんのほっぺは、桜色になっていた。

俺はそんな瑠璃ちゃんの頭を撫でると、笑顔を向けた。


「牛乳買いに行こっ」

「よしっ。じゃあ走っていくか!」

「えー。歩いてこ」

「…そうだね。疲れるもんね」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


久々にふわっとした話でした。

コメディ要素は皆無回でした。

明日届く予定の『屋上の百合霊さん』が楽しみで楽しみで仕方ないです。


次回もお楽しみに!

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