和解弁明
三年生になって一番変わったのは、受験に向けての授業が多くなったことだ。
それに伴って放課後の講習とかも受けれるようになって、遊ぶ時間よりも受験勉強しないとダメなのかなーっていう雰囲気がちらほら見えてくる。
私は講習は受けていないけど、講習を受けている子から聞くと、今までの復習をやっては、受験で出やすいところを教えてくれるらしい。夏休み明けくらいからなら受けてみようかなー。
正親さんが言うには、毎日キチンと勉強して授業をしっかり聞いていれば、特別な勉強はしなくても大丈夫ってことだけど、周りを見ているとなんだかなーとは思う。
クラスは、私と亜里沙ちゃんが同じクラスの一組。ヒロトくんと怜央くんが同じ三組で、キララちゃんだけ一人で二組。休み時間になるとキララちゃんがすぐにうちのクラスにやってくる。時々ヒロトくんのところに行っては、イチャイチャしてて居づらいからって言って、怜央くんがこっちに来ることもある。
そして三年生に上がって四月も終わろうとして、明日からGWの大型連休に入ろうとしていた。
亜里沙ちゃんが掃除当番だったので、廊下でボーッとしながら掃除が終わるのを待っていた。
「武田」
ふと声をかけられて、声がした方を見ると、内海くんが立っていた。内海くんはまた同じクラスだ。
私が首をかしげると、一度視線をそらしてからもう一度私を見て言った。
「ちょっといいか」
クルリと反転して、スタスタと歩いて行ってしまう。ついてきてほしいということだと思って、私は小走りで追いついて後ろを歩いた。
教室が並ぶ廊下を抜けて、六組の奥の先の廊下の一番端の壁際までやってきた。そこにある窓からは外にある道路が見える。
内海くんがその窓から下を覗き込んで、下を歩く人をチラッと見た。
何かあるのかと思って、私も覗き込んでみたけど、特に何も目新しいものは見当たらなかった。
「武田」
内海くんがもう一度私のことを呼んだ。
私が内海くんを見ても、内海くんは視線を合わせずにそっぽを向いたままだ。
「なに?」
私がそう言うと、内海くんは頭をポリポリとかいて言った。
「俺さ、武田にずっと言わなきゃって思ってたことがあったんだ。えっと、その…」
もったいぶって言う内海くんに、私は首をかしげた。
もう一度頭をポリポリとかいてから言った。
「あの時、怪我させて悪かった!」
そう言ってから頭を下げる内海くん。
『あの時』っていうのは、多分一年生の時のあのことだろう。
私が内海くんに振り払われて膝をぶつけたときのアレだろう。
もしかしてずっと気にしてたのかなぁ。
なおも頭を下げ続けている内海くんに言う。
「私、気にしてないよ。だから頭上げてよ」
「でもお前だけじゃなくて、お前の友達だってみんな気にしてるだろ?」
「ヒロトくんとか?」
恐る恐るといったように頭を上げた内海くんが頷く。
ヒロトくんの顔を思い浮かべる。そんなに気にするかなぁ? 気にするか。
「気にしてるかもしれないけど、ちゃんと話せばわかってくれるって」
「話しかけれるような関係じゃないし…」
「じゃあ今から行く?」
「えっ、いや、それはちょっと…と、とりあえず、武田とまた同じクラスになったら謝ろうって決めてたんだ。今年もまた同じクラスになったのに、なんか気まずいままだと嫌だったし」
腰に手を当てて視線をそらしてそう言う内海くん。
ずっと気にしてたんだ。
「私は別に気にしてなかったのに。内海くんがずっと私の挨拶を返してくれなかったから、ずっと嫌われてるのかと思ってた」
「嫌いっていうか、その、い、いきなり挨拶とかされると、恥ずかしいだろ」
「そうなの?」
「そーゆーもんなんだよ。全員が全員、武田の友達みたいな気さくなやつじゃないんだって」
「ふーん」
「だから、その、なんだ。今年はちゃんと挨拶も返すし、クラスの中だけでもいいから会話は、したいな、って思ったり思ってなかったり…」
「思ってないの?」
「違う! 思ってる思ってる!」
「ハハハ。じゃあ今年もよろしくね」
「お、おう」
内海くんに笑顔で仲直りの握手を求めると、私の手を握ってぎこちなく笑ってくれた。
今年もいい一年になりそうだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
何やらほんわかした雰囲気。
そして三角関係の雰囲気。
次回もお楽しみに!




