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三年生

今日は始業式。

春になり、三年に進級した生徒たちが自分のクラスを見ようと、廊下にある掲示板の前にワラワラと集まっている。もちろん俺は自分のクラスのメンバーを見に来たわけじゃなく、自分の名前が探し出せない生徒になんやしたり、混乱が起きたときにかんやしたりする見張りみたいなものだ。

その集団の中には見たことがある顔がたくさんあった。三年間も同じ学年の連中を見ていれば、さすがに覚える。でも顔と名前は一致しない生徒の方が多いかな。ハハ。

その中に吉田と滝の顔を見つけた。

吉田も滝も俺のクラスだ。結局三年間同じクラスだった。まぁこーゆーのはよくあることだ。

吉田が掲示板をジッと見ているところへ、先に自分の名前を見つけた滝が歩み寄っていく。

そして吉田の肩をトントンと叩き、何か言ってニコッと微笑む。その直後、吉田がピクっと動き、滝に向かって言葉を返しているようだった。

二人で教室の方へ向かっていくようで、並んで歩き出した。

と、そこで吉田が俺に気づいて、滝に何か言ったかと思うと、滝と別れて吉田だけこっちに歩いてきた。


「先生」

「ん?」

「ありがとうございます」

「え、何が?」


急にお礼を言われた。

なんのことかわからない。心当たりもない。

昨日まで春休みだったからここ最近のことではないのだろう。


「私、滝くんとまた同じクラスだったんです」

「そうだな。おめでとう」

「先生が私をとってくれたんでしょ?」

「…ん?」


とる?


「だってクラス替えの時って、先生方が集まってじゃんけんして、それで順番にクラスの生徒を選んでいくんですよね」

「そんな選び方しませんー」


どこの世界に自分のクラスをじゃんけんで決める学校があるってんだ。

クラス替えは真剣な話し合いで決定するんだ。

同じ学年で、成績が均等になるように割り振ったり、運動能力も均等にして、クラスのリーダーになれる子を分けたりもする。あとはピアノが弾ける子なんかも分けるかな。他にもいろいろあるけど、他は学校によりけりだ。


「えっ、じゃあどうして私と滝くんは同じクラスなんですか?」

「クラスはくじ引きで決めてるの。だからお前らが一緒になったのはただの幸運だよ。良かったな」

「そうですか。でも嬉しいです」


吉田は表情が変わらない。でも自分の口から嬉しいとか悲しいとか言うようになった。吉田なりに努力をしているのか、それともただの無意識なのかは知らん。


「でも滝くんと同じクラスになれて嬉しいです。さっきも『また同じクラスだね』って私に笑ってくれました。もう死ぬかと思った」


こいつ、絶対滝のこと好きだろ。

聞いてみちゃうか。


「吉田は、やっぱり滝のことが好きなのか?」

「……」


なぜ黙る。


「私、さっき滝くんに微笑まれて、もう顔が真っ赤でした」

「真っ赤だったか?」

「…見てたんですか?」

「偶然な」


見た感じ真っ赤ではなかったと思う。


「まぁ先生ならいいです。私、滝くんのこと好きなんですかね?」

「…さぁ?」

「…なんて無責任な」

「あのなぁ。俺をなんだと思ってるんだ。お前の保護者でも監視役でもないんだぞ。ただの担任だ」

「もうこんなこと相談できるの先生くらいなんです! だから教えてください!」


そう言って胸ぐらを掴んで俺に詰め寄ってくる吉田。

俺は壁をしょっていたため逃げ場がなく、背伸びをして上に逃げた。が、所詮足の大きさ分だけ逃げたところで何も変わらず、吉田の近距離攻撃には効果は薄かった。

吉田の視線から逃げるために視線を横に逃すと、視線の先で滝がこっちを見て立っていた。


「あっ」


思わず声をあげると、俺の視線を追うように吉田も滝を発見した。


「た、滝くん」

「吉田さん…」


パッと手を離す吉田。


「ち、違うの。これには深いわけがあって…」

「先生と仲いいんだね」


そう言って無理やり作ったような笑みを浮かべて、踵を返して歩いて行ってしまった。


「滝くん…」


その背中を見つめながら小さく呟く吉田。

俺はそんな二人を見て思った。

なんだ? 付き合ってるのか?


「先生のせいですからね。先生のせいで滝くんに勘違いされちゃったじゃないですか」

「俺のせいじゃないだろ。吉田が詰め寄ってきたんだろ」

「もういいです。はぁ…滝くんに誤解されちゃったかなぁ…」

「なんだお前ら、付き合ってるのか?」

「つ、付き合ってるわけないじゃないですか!」

「お、おう。ごめんな」

「付き合ってたらどんだけ良かったことか」

「やっぱり好きなんじゃないか」

「でも私なんか相手にしてくれるんでしょうか?」


まっすぐであまり表情の変わらない吉田が俺を見上げる。


「相手にされるまで詰め寄るのが女ってもんだそうだ。俺の彼女がそう言ってた。それで落ちたのが俺だ」

「詰め寄りすぎて嫌われませんかね?」

「嫌いになってるならもう振り払われてるって。それに滝はそんなことしないだろ」

「……」


俺の言葉に何かを考えているよな仕草をし、大きく頷いた。


「私、頑張ります」


そう元気に(?)言った吉田は、どこか笑っているようにも見えた。


「おう。頑張れよ」


俺が肩をトンと叩くと吉田がこっちを向いた。


「先生。セクハラです」

「おうふ」


ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


久しぶりの吉田でした。

なんか可愛く見えてきた今日この頃。


次回もお楽しみに!

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