お見舞い・二人きり・優しい時間
タイトルはオーズ(ry
「……」
「……」
二人きりになった部屋の中では、沈黙が続いていた。
台所の方からは、キララちゃんたちの声がやんやと聞こえてくる。
チラッと怜央くんを見てみると、玲央くんもこっちを見ていて、ちょっとドキっとした。
な、なんか喋ったほうがいいのかな…
そう思っていると、怜央くんのほうから口を開いた。
「武田さん、具合はだいぶいいの?」
「あ、うん。全然平気だよ。今日も学校に行こうと思ったんだけど、みんなに移したら困るし、正親さんが休め休めって言うから休んだだけ」
「そっか。それは良かった。学校休むぐらいだから、もっとひどいのかと思ってたんだ。だから、その…」
「ん?」
「その、心配した」
顔を赤くして言う怜央くん。
私も思わず赤くなる。バレないようにするために、布団を鼻の上まで引っ張り上げた。
なんかそんなことで恥ずかしがることないのに、普通に言えばいいのに、そうやって照れられるとこっちもなんか照れちゃう。別に心配してたよ、って言ってるだけなのに。
「えっと、ありがと」
「うん。なんともないみたいで良かった。ハハ、ちょっと暑いね」
自分の顔をパタパタと仰ぐ怜央くん。
部屋のドアがガチャっと開いて、三人が戻ってくる。
「瑠璃ー。ヒロトがちょっと食べちゃって、量が少なくなっちゃったー」
「キララだって『味見ー』とか言って食ってたじゃねぇか。俺だけのせいではない」
「私は食べてないよ」
「亜里沙だけズルイ! ほら、食べろ! 今すぐお食べ!」
「これ以上量を減らしてどうするんだよ」
三人が戻ってきて賑やかになった。
怜央くんもアハハと笑って三人を見ている。まだちょっと顔が赤いのは、きっと暑いせいだろう。私もちょっと暑いから、布団をバフバフして空気を出し入れした。
「何バフバフしてんの。ほら、起き上がって。食べれるでしょ?」
「なんかキララちゃん、お母さんみたいだね」
「そんなに老けてないっての」
「見た目の話じゃなくて、仕草とか言い方とか。意外と面倒見いいもんね」
亜里沙ちゃんに言われて、キララちゃんがヒロトくんと怜央くんの顔を見て『ホント?』と聞くと、二人とも大きく頷いていた。
そして私の方を見て同じことを聞く。
「私、お母さんっぽい?」
「うーん、多分」
「多分って…ほら、あーん」
「あーん」
キララちゃんがレンゲに乗せたおじやを口の中に入れてくれる。
それをモグモグと咀嚼していると、キララちゃんが思い出したかのように聞いてきた。
「そういえば瑠璃のお母さんってどんな人だったの?」
「どんな人って言われても…」
一応もう死んじゃってることはみんなには話してる。でも私が親戚のおじさんとおばさんに預けられたこととか、正親さんに買ってもらったことは内緒にしてる。私と正親さんは親戚で、その親戚のよしみで養子にしてもらったっていう風に説明してる。
こうやって改めて聞かれると、あんまり思い出せない。顔とかは思い出せるんだけど、どんなことをしてもらったとか、どんなことをしたとかっていう記憶がほとんどない。
私が頑張って思い出そうとしていると、それを察してくれたのか、怜央くんが言った。
「無理に聞いてるわけじゃないからね? 話したくないなら話さなくてもいい、と思うよ」
「そ、そうよ。私だってなんとなく聞いただけだから、気にしないでね?」
いつかみんなには本当のことを話さないといけないとは思うんだけど、まだやっぱりそんな勇気はない。
本当のことを話した時に、嫌われたら嫌だし、今の仲良しの関係が崩れてしまうのも嫌だ。
でもいつかは……
そーゆー意味も込めて謝った。
「ごめんね」
「いいのよー。女は秘密があるから美しくなるのよ? だから瑠璃は可愛いんだっての」
笑顔でそう言ってくれるキララちゃんは優しい。もちろん亜里沙ちゃんも優しいし、怜央くんもヒロトくんも優しい。みんな優しい。
「ほら。どんどん食べてー。はい、あーん」
「ん。あーん」
私はキララちゃんから差し出されたおじやを口の中に入れた。
「じゃあ私たち帰るけど、寝てなきゃダメだからね」
「うん」
「ゆっくり休んで、明日は学校来てね」
「ありがと」
「じゃあお大事にな」
「また明日ね」
「うん。みんなも気をつけて帰ってね」
玄関でみんなを見送った。
なんだかいい友達を持ったなーって思って、私は笑顔になった。
気がつけば、そこまで咳も出ていないし、からだもだるくなく、風邪がどこかに飛んでいってしまったようだった。
ピーンポーン。
元気なうちに、さっきのおじやが入っていた小さい土鍋を洗おうとキッチンへ向かおうとしたところ、インターホンが鳴った。
誰かと思ってインターホンのモニターを見てみると、そこには怜央くんが映っていた。
私は玄関へと向かい、ドアを開けた。
「どうしたの?」
私は忘れ物でもしたのかと思って声をかけた。
すると、怜央くんは何も言わずに私を抱きしめてきた。
急に抱きしめられて驚いた。驚いたけど、急にどうしたのかとも思った。
「れ、怜央くん?」
「武田さん。いつか、本当のこと話してね」
「……」
さっきの話の続きだ。
怜央くんは、私の話が本当じゃないって気づいているのかな? だからこそのこの言葉なのかな?
「いつでもいいから。僕はずっと待ってるから」
そこまで言って抱きしめていた腕を放して、私の前に立つ。
何も言わなかったけど、怜央くんが黙っている理由もなんとなくわかった気がした。
私は怜央くんに応えるために答える。
「うん。絶対話すから」
「わかった。それだけ言いに来たんだ。ごめんね」
「ううん。ありがと。みんなにもちゃんと言うからって言っておいて」
「うん。じゃあゆっくり休んでね」
「ありがと。また明日ね」
ドアを閉めると、私は熱が上がってしまったかのように顔が熱くなった。
手で触ると、熱っぽくもあった。
でもこれは熱なんかじゃない。
私、怜央くんのことが好きなんだ。
そう自覚した中学二年生の冬だった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
長かった…
今回はキャラが動きすぎた気がします。
特に怜央。あのヤロー勝手に戻りやがって…
妄想が止まらないとこーなります。
いい例ですね。
次からは受験やら進級やら内海くんやら恋愛やらといろいろと複雑な3年生になります。
果たして瑠璃ちゃんは生きて帰って来れるのか!
少女漫画のような展開でも許してください!!w
次回もお楽しみに!




