子ども扱い
お風呂が壊れた。正確にはお湯が出なくなった。
瑠璃ちゃんが帰ってきて、風呂を貯めようと、湯船にお湯を張っていたのだが、いざ入ろうと風呂場の戸を開けたところ、涼しい風が風呂場から流れてきた。もしやと思ってお湯を触ってみたところ、一切お湯が出なくなってしまっていた。このもう少しで12月という時期に水風呂に入るのは自殺行為だ。不幸中の幸いで、瑠璃ちゃんよりも先に俺が風呂に入ろうとしていたことだ。もし瑠璃ちゃんが先に入っていたりでもしたら、それはもう冷えて風邪でもひいたら問題だ。
ガス会社に連絡すると、時間が時間なのと、準備やらであさっての夜に来てくれるとのことだった。
受話器を置いた俺は、心配そうに俺を見てくる瑠璃ちゃんに、あさってに修理が来てくれることを伝えた。
「どうしよっか?」
「どうするかなぁ…」
俺はまぁなんとか大丈夫だけど、瑠璃ちゃんは女の子だし、女の子が2日もお風呂に入らないのはいかがなものかと思える。
うむむ……あっ!
「お風呂行こっか」
というわけで、迎えに来たタクシーに乗って十分ぐらいの距離にある温泉施設へとやってきた。
日帰り入浴ができて、タオルとかも貸してくれて、岩盤浴もあることでそこそこ有名なところだ。今日は岩盤浴には入らないし、お風呂に入ってご飯食べて帰るだけだけど、今度はゆっくりと来てもいいかもしれない。
「はい。これ鍵ね。このロッカーを使うんだよ。あと、湯船に入る前にはちゃんとからだ洗ってから入ってね。あとは…」
「正親さん」
色々と言っていると、瑠璃ちゃんに遮られた。
「私、もう子どもじゃないし、中学生だからそのくらいわかるから大丈夫だよ。出たらこのへんで待ってたらいい?」
「あー…そうだよね。そうしよっか」
「正親さんって、長風呂?」
「多分。瑠璃ちゃんは?」
「ゆっくり入ってくるかも」
「わかった。じゃあ俺も長めに入ってくるわ」
「うん。じゃああのへんで待ち合わせね」
そう言って瑠璃ちゃんが女湯へと入っていくのを見てから呟いた。
「…瑠璃ちゃん、大人になったなぁ…」
「はぁ……気持ちーなー……」
自分でもおっさん臭いと思うような声を出しながら湯船に入る。
そして湯船に浸かりながら、ボケーっといろんなことを考える。
瑠璃ちゃんも成長してるんだよな。最初に会ったときはまだこんなにちっちゃかったのに、今では立派に自分のことを『子どもじゃない』と言ってたし。なんか瑠璃ちゃんはずっと俺が守ってやらなきゃーって感じがしてたんだよな。そんな俺の元でも瑠璃ちゃんは成長してるんだよな。なんか時が流れるのは早いな。
なんかウルッときてしまって、お湯を顔にバシャッとかけて気持ちを切り替えた。
最近どうも涙腺が弱くなってきた気がする。
泣きはしないけど、泣きそうになる時がある。
…更年期か? いやいや。まだ早い……でも秋山先生も確かこの時期には卒業式でベーベー泣いてたし……こりゃやばいな。
あまり長く入っているとまた色々考えてしまいそうだったので、瑠璃ちゃんには長風呂宣言したものの、早く上がることにした。
風呂から出て待ち合わせの場所を見てみたけど、さすがにまだ出てきてなかったみたいだったので、長いソファに座っていた若者の二人分ぐらい離れた位置に座って、大画面のテレビを見ていた。
なにやらクイズ番組風のバラエティがやっていた。レギュラー陣とゲスト陣がクイズバトルを繰り広げている。
それをぼんやりと眺めながら瑠璃ちゃんを待った。
それから十五分ぐらいすると瑠璃ちゃんがやってきて、そのまま横に座った。
「お待たせ」
「ゆっくり入れた?」
「うん」
「ちゃんと髪も乾かした? 寒いから風邪引いちゃうよ」
「またそうやって子ども扱いするー。ちゃんと乾かしたって」
瑠璃ちゃんが腕をバシバシと叩く。
しばらくは瑠璃ちゃんを子ども扱いするのは治りそうにないな、と思った。
二人で食べ物がいろいろと売っているところへ入ると、席にテーブルを挟んで向かい合って座ってメニューを見る。
「いらっしゃいませー」
「んー…」
メニューを瑠璃ちゃんのほうに向けながら、逆さまのメニューを見て考える。
ラーメンでいっか。
「瑠璃ちゃん、決まった?」
「うん」
「じゃあ俺は醤油ラーメン」
「フフ」
瑠璃ちゃんが小さく笑う。
「それもう一つでお願いします」
「え?」
「私もそれ食べようと思ってたのに。真似しないでよ」
「瑠璃ちゃんが真似したんでしょ」
「ハハハハハ」
瑠璃ちゃんが笑っている。
俺が何やら考えても、瑠璃ちゃんは瑠璃ちゃんだった。
いくら大人になっていると言っても、瑠璃ちゃんは俺の娘だし、これからも子ども扱いしていこう。
だって娘だもん。
この子は俺が責任もって育てるって決めたんだ。
そう思って、俺は瑠璃ちゃんに向かって笑顔を見せた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
艦これ始めちゃいました。
天竜ちゃんかわいー。
次回もお楽しみに!




