というわけで
キララちゃんとヒロトくんが付き合い始めて、早一ヶ月が経ちました。
「マジで? でもさ」
「でもさ、じゃねぇって。あれはキララが悪いんだろ? 毎回毎回…」
「毎回じゃないってば。おとといはちゃんと『おやすみ』って送ったじゃん」
「それも届いたの朝だけどな」
「そうだっけ?」
「未送信メールに残ってた、って自分で言ってたじゃん」
「あーそーいえばそんなこともあったなー」
「年寄りみたいに言うなこの若者が」
「アハハハハ」
五人で遊んでるんだけど、怜央くんの家の四人プレイのゲームを私と玲央くんと亜里沙ちゃんの三人でプレイして、後ろのソファでキララちゃんとヒロトくんがずっとくっついて喋っていた。
付き合い始めてからはずっとこんな感じで、完全に二人の世界が出来上がっていた。
みんなでいるときは気にしなくていいから、と言われていたけど、気にするどころか邪魔すらできないような状態になっている。
そして後ろの二人がだんだん盛り上がってくると、一番ゲームがうまいはずの怜央くんが下手くそになってくる。
今はレースゲームなんだけど、私は曲がるときにからだごと傾いちゃって、全然順位が上がらない。亜里沙ちゃんはお兄ちゃんと時々やるみたいで、玲央くんほどじゃないけど上手い。そして玲央くんは、ほとんどのコースで1位をとっている。
「なんで思ったように動いてくれないのー」
「武田さんは腰から運転してるもんね」
「私、瑠璃ちゃんが運転する車には乗りたくないかも」
「二人してひどいー。私だって実際の車ならもっと上手いもん。たぶん」
「あっ、ちょっとどこ触ってんのさ!」
「ちょっとぶつかっただけだろ。いちいち細かいこと気にすんな」
そんな後ろの会話が聞こえたとき、画面の玲央くんの操作するキャラの車が壁にぶつかった。
チラッと玲央くんを見ると、画面ではなく、外を見ていた。すごい余裕だ。
「チャンス!」
私を挟んで玲央くんとは反対側にいるキララちゃんから聞こえてきた。その言葉と同時に、接戦だった亜里沙ちゃんが怜央くんを抜き去ってゴールしていた。
「怜央くんに勝ちたい時にはキララちゃんとヒロトくんを呼べばいいんだ」
「滝さん、それはずるいよ…」
「いい加減に慣れたらいいのに」
「…慣れる日が来るとは思えない」
結局私は周回遅れになったままビリでゴールできなかった。つまらん。
私が画面にデカデカと表示された最下位の順位を見ていると、後ろから声が聞こえた。
「あっ…」
「ちょっとヒロト!」
「見られてたか」
「亜里沙と怜央のエッチー」
「そこまでくっつくんだったら二人だけで出かけたらいいじゃん!」
「って言っても、中学生の財力じゃどこにも行けないしな」
振り向くと、顔を赤くした怜央くんが二人になにやら言っていた。亜里沙ちゃんと目があったので、何かあったのかと聞いてみた。
「どうしたの?」
「えっと…キララちゃんとヒロトくんが、その、キスしてたの」
「え?」
キス…
二人はもうキスしたんだ。仲いいなぁ。
「キスってどんな感じなの?」
「えっ…私に聞かれても…二人に聞いてみれば?」
「それもそっか」
亜里沙ちゃんに聞いたのはちょっと違った。
二人のほうを見ると、キララちゃんがちょうどこちらを見ていた。
「キスっていうのはね、なんか相手の唇が美味しそうに見えるのよ。あとは勢いね」
「美味しそうに見えるの?」
「そうよ。好きな人のだと美味しそうに見えるみたいよ」
「どんな味するの?」
「それは人それぞれよ。ヒロトはヒロトの味がするわ」
「ふーん」
じゃあキララちゃんはキララちゃんの味がして、ヒロトくんとキララちゃんは二人ともその味が好きということか。
私は亜里沙ちゃんに向かって言った。
「キスって難しいね」
「キララちゃんが言ってるのは、そーゆーことじゃないと思うんだけどね」
ハハ、と亜里沙ちゃんが小さく笑った。
キララちゃんが私に向かって言った。
「瑠璃もしてみれば?」
「誰と?」
「それはもちろん…」
キララちゃんがニヤニヤしながら玲央くんを見た。
「ちょっと笹木さん! やめて! お願いだからそういうのやめて!」
「アハハハハ! 冗談よ。じょうだん」
「冗談がキツすぎるよ…」
怜央くんの味…ちょっと気になったけど、好きな人同士じゃないとキスはしないってキララちゃんが前に言ってたし、亜里沙ちゃんが私の左手を掴んでいたので、動くに動けなかった。
……怜央くんもそこまで否定することないのに。
そんなに嫌なのかなぁ…
ちょっとショックかも。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
シュウさん「じゃあ瑠璃と亜里沙でキスすればいいじゃん」
山田さん「絶対死守する」
次回もお楽しみに!




