修学旅行最終日
「私、ちょっと行ってくる」
「う、うん。頑張って」
「もし振られたら抱きついてもいい?」
「もちろん!」
「…抱きつかないことを祈っててね」
「あ、そっか。うん、わかった」
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そんな会話をしてキララちゃんは私の元から離れていった。
修学旅行の全日程が終わって、現地解散となる札幌駅。ここから各自公共機関や家族の迎えなどで、家へと帰宅する。帰宅するまでが修学旅行らしい。
でもそんな中、帰りの電車内で覚悟を決めたキララちゃんが、ヒロトくんの元へと歩いていった。
そう。告白するらしい。
視線の先には、キララちゃんの後ろ姿と、きっと玲央くんを待っているであろうヒロトくんが見えている。
そのヒロトくんの元へとキララちゃんがたどり着き、何か声をかける。そして遅れてやってきた怜央くんにヒロトくんが何やら喋って、キララちゃんがこっちを指差して、怜央くんだけがこっちにやってくる。
ちなみに、亜里沙ちゃんはお母さんが迎えに来てくれてるみたいで、さっき先に帰っちゃった。
「武田さん」
私の近くまで来た怜央くんが、軽く手を振りながらやってきた。
私も胸の高さまで手を上げてそれに応える。
「修学旅行どうだった?」
「楽しかったよ。怜央くんは?」
「楽しかった。でも武田さん達ともいろんなことしたかったなーって思ったかな」
アハハと笑う怜央くん。
怜央くんは、笑うと眉の端が下がる笑い方と、楽しそうに笑う笑い方の二パターンがある。
前者は冗談を言っているとき。後者は面白いことを誰かが言ったとき。
今回は眉の端が下がる笑い方だった。
「私もみんなで回りたかったかな。楽しいことはみんなでしたいよねー」
「うん。みんなで旅行とか行けたらいいよね」
「お泊り会とかする?」
「さすがに女の子の家に泊まりにはいけないかな。正親さんに怒られそう」
「怒るかな?」
「…怒るでしょ」
ふとさっきキララちゃんとヒロトくんがいた場所を見てみると、そこにはもう誰もいなかった。場所を変えたらしい。
でもキララちゃんの荷物が私の足元にあるので、先に帰ったってことはないみたい。
「そういえば、二人はなんの話してるんだろう?」
「えっ?」
「武田さん、知ってる?」
怜央くんは知らないんだ。
でもきっと戻ってきたら誰か言うだろうから、言っても大丈夫だろう。
「今ね、キララちゃんがヒロトくんに告白してるの」
「…告白?」
「うん」
「笹木さんて、ヒロトのこと好きだったの?」
「うん」
「うんって…」
「怜央くんはどうなると思う?」
「…言っていいのかわかんないけど、多分うまくいくと思うよ」
「そうなの?」
「ヒロトが変なこと言わなければね」
怜央くんはどこか嬉しそうにさっきまで二人がいた場所を見ていた。
私もそこを見ていると、玲央くんの視線を感じて、今度は玲央くんのほうを見た。
怜央くんが少し驚いたような顔をして視線をそらした。そしてまた視線を私に戻す。その顔は何か覚悟を決めたような顔のような気がした。
「あ、あのっ、武田さんっ」
「なに?」
その声に反応したのか、ちょっとだけ顔が熱くなったのがわかった。
そして怜央くんが息を吸って、吐いて、また吸って、『よし』と小さく声を出した。
「あのさ、僕、ずっと」
「瑠璃ー!!」
「きゃっ!」
怜央くんが口を開いた瞬間、後ろから誰かに抱きつかれた。
首をひねって見ると、そこにはキララちゃんがいた。
抱きついてきたってことは…振られちゃった?
でも抱きついたまま、私の背中にグリグリと頭を押し付けてくるキララちゃん。
「キララちゃん?」
「えへへへへー」
「おいっ! キララ! 瑠璃が困ってるだろうが。離れてやれよ」
「ヒロトくん」
キララちゃんが来た方からヒロトくんもやってきた。
そしてキララちゃんが私から笑顔で離れて、ヒロトくんの元へと移る。
「何? ヤキモチ?」
「ちげぇっての。普通に困ってただろ」
「そんなムキにならなくてもいいのにー」
「お前、テンション高すぎ」
「えへへへー」
不思議そうに私が二人を見ていると、キララちゃんがその視線に気がついて、笑顔でヒロトくんの腕に抱きついた。
「瑠璃っ。こーなりました!」
「そーゆーことだ」
二人で笑顔で互いを見合う。
ということは…
「二人とも付き合うってこと?」
「そーゆーこと!」
「おー! おめでとー!」
「ありがとー! あっ、でも今までどおりでいいからね? 全然気を使わなくてもいいからね?」
「えー、難しいなぁ」
私が冗談でそう言うと、キララちゃんが私のほっぺをふにふにしてきた。
そっか。二人とも好き合ってたんだ。
だからさっき怜央くんもあんなこと言ってたんだ。
あ、怜央くん。
急にキララちゃんが来たからビックリして忘れてた。
私は振り返って後ろにいる怜央くんを見た。
「ごめん。なんだっけ?」
「……いや、なんでもない」
手の甲を口元に当てながら、視線をそらしてそう言った玲央くん。どことなく顔が赤い気がした。気のせいかもしれないけど。
私が首をかしげていると、後ろで二人の声が聞こえた。
「もしかして、お前が邪魔したんじゃないか?」
「えっ!? 嘘でしょ!? ちょっと怜央っ? 邪魔しちゃった系?」
怜央くんの肩をキララちゃんが叩いて声をかけていた。
私はヒロトくんの方を見た。
「おめでと」
「おう。ありがとな」
私が笑うと、ヒロトくんも照れくさそうに笑っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただると嬉しいです。
怜央くんもタイミングが悪い勢の一人です。
次回もお楽しみに!




