修学旅行と研修旅行
九月。
夏休みが終わり、だいぶ涼しくなってきた今日この頃。
今日から瑠璃ちゃんは修学旅行で家にいない。函館を通って青森で一泊、次の日に秋田まで行って一泊、そして最後は電車で帰ってくるという二泊三日のスケジュールである。
家には俺一人になるため、恭子でも呼ぼうかと思ったのだが、恭子は恭子で昨日から三泊四日の研修旅行に行っている。去年同様、大阪での勉強だらけのスケジュールだそうだ。
「まぁこういうのもアリだろう」
平日だから普通に学校はあったし、せっかくだから誰かと飲みにでも行こうかと思った。
しかし…
「秋山先生、今日飲みに行きませんか?」
「えっ!? 今日!? 今日はちょっと用事があるんだわ。わりーな」
「伊藤先生、今日飲みに行きませんか?」
「あー…今日は家族でこのあと食事に行くんですよ」
「高津先生、今日飲みに行きません?」
「ごめんなさい。今日は友達と一緒に飲みに行くんですよ」
「じゃあ笠井くん、飲みにいかない?」
「すみません。今日、高校の同窓会なんすよ」
全滅だった。
帰り道、泣きそうになりながら地下鉄の改札へと向かっていた。
なんとタイミングの悪い男なのだろうか。
と、思っていたとき、ポケットに入れていたスマホが震えた。
『今日ヒマー?』
宏太だった。
「いやー、まさか俺に連絡がないだなんて思いませんでしたよ、正親さん」
「ごめんって。そこまで頻繁に会わないから存在を忘れててさ」
「アハハハ。冗談やろ?」
「アハハハ」
『ハハハハハ』
宏太と居酒屋にやってきた。
ダメもとで連絡してきたらしい宏太は、『無理なら今日じゃなくてもいいや』という感じで連絡してきたらしい。
全員に振られ続けていた俺からしてみれば、素晴らしいタイミングでの救いの手だった。
「それにしても全員に振られるってすごいやん」
「だろ? 珍しいこともあるもんだ」
「嫌われてるんじゃね?」
「やめてください。それより今日はどうしたんだ?」
「何が?」
「何が、じゃないっての。何かあったから連絡してきたんだろ?」
「えー…別に何もないんやけど。ただちょーっと飲みたくなったから連絡してみただけなんやけど。気まぐれってやつや」
「ふーん」
まぁその気まぐれに今日は助けられたわけだから良しとしよう。
「天野ちゃんとはどうなん? うまくやってんの?」
「それなりかな。特にケンカもしてないし。瑠璃ちゃんとも仲良いし」
「ハハハ。ただのお母さんみたいになってるやん。結婚とかせーへんの?」
「考えてないわけでもないけどさ、恭子も保育士目指してるわけだし、このタイミングでの結婚はないかなって」
「へー。じゃあ保育士になったら結婚すんの?」
目の前の焼き鳥を食べながら宏太が言う。
俺としても結婚願望はある。もちろん結婚するなら恭子だ。でも恭子にも夢がある以上、それを優先させてあげるべきだろう。いくら俺が三十路手前で、そろそろ結婚を考えている歳であったとしても、恭子のことを考えるのは当然だろう。
「さぁ? わからん」
「さよか」
深く突っ込んでは来なかった。
なんとなく答えてくれないとわかったのだろう。
答えないわけじゃない。答えがまだ見つかってないだけだ。
「宏太は? なんか色恋沙汰はないわけ?」
「ないない。最近は人を好きになるということを忘れてしまったみたいや」
「何かっこいいこと言ってんだ」
「はいはい。出会いがないだけですよー。じゃあ俺が瑠璃ちゃんの結婚相手にでもなるかな」
「あ?」
「…正親。顔、怖いで」
そんな感じで俺は宏太と楽しく飲んだ。
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