忍者吉田
「先生」
ふと廊下で後ろから声をかけられた。振り返るとそこには吉田がいた。
2年に上がっても吉田は吉田で、俺の受け持つクラスだった。そして今でも『ちょっと変な奴キャラ』だった。
「どうかしたのか?」
「ちょっと人に聞かれたくない話なんですけど、いいですか?」
「え? いや、えっと…」
俺は吉田に近づいて小さい声で聞く。
「…いじめか?」
「違います。ちょっと相談したいことがあって」
「相談?」
なんだべ?
とりあえず職員室の隣の進路相談室へと二人で入った。
机を挟んで向かい合って椅子に座った。
「で? どうした?」
「私、友達いないから誰にも相談できなくて…」
「滝がいるじゃないか。滝じゃだめなのか?」
「ダメです。むしろダメです」
滝も同じクラス。吉田の…友達?
滝は優しい男の子で、帰る方向が同じというだけで学祭をきっかけに吉田と仲良くなったのだ。すっかり友達として仲良くしているんだと思っていたのに、俺の思い違いだったみたいだ。
「まぁ俺でいいなら聞くけど」
「ありがとうございます。実は最近滝くんに私の知らない女が」
「はいちょっと待った」
「はい?」
あれ?
「なんかちょっと今思ったんだけどさ、吉田って…えっと、その…滝のことが好きなのか?」
「いえ。仲良くしてもらってるだけですごい嬉しいです」
「じゃあ滝が誰と仲良くしててもいいんじゃないのか?」
「とりあえず最後まで聞いてください」
「お、おう」
そう言ってまた淡々と表情を崩さずに話し始める吉田。
「その女なんですけど、滝くんとやたら仲がいいんですよ。もしかして滝くんのことを狙ってるんでしょうか?」
「…狙ってる、といいますと?」
「そのままの意味です。滝くんは私共仲良くしてくれるぐらい優しいので、もしかしたらその女は滝くんの優しさに触れてしまって、好きになったんじゃないかなと思って」
「……」
これは恋の相談だよな?
俺が立ち入ってもいいのだろうか?
「先生? 聞いてます?」
「聞いてる聞いてる。吉田はどうしたいんだ? 滝とその子が付き合わない方がいいのか? それとも応援したいのか?」
「それがわからないから相談してるんじゃないですか」
吉田はちょっとムッとしたように頬を少し膨らませる。
『どうしたいかが問題ではなく、どうしたいかを悩むことが正解なのかを悩むことが問題なのだ』ということか。ややこしい。
「俺はカウンセラーでも無ければ、ただの担任だぞ?」
「先生も優しいので、大丈夫です」
「どういう基準で決めてるんだよ」
「とにかく私はどうしたらいいですか?」
なんちゅーやつだ。
「とにかく、吉田は滝のことをどう思ってるんだ? 好きなのか? 嫌いなのか?」
「好きですよ。私と仲良くしてくれてるんですから、良い人に決まってます」
学祭で友達なくしてから人間不信にでも陥ってるかのような答え方だな。
「お前さ、素直に『滝くんは私の友達です』って言えばいいじゃん」
「…友達です」
「なぜ赤くなる」
わずかに赤くなる吉田。
「い、いや、その、私が滝くんの友達だなんて迷惑かなって思って」
「そう思われることが滝にとっては迷惑だろうけどな」
「えっ、そうなんですか?」
「滝は絶対にお前のことは友達だと思ってるぞ」
「友達…」
そう呟いて、何か考えているような吉田。
そして口を開く。
「私、滝くんが他の女に取られるのは嫌ですね。もし誰かと付き合ったりなんかしちゃったら、滝くんに話しかけにいけなくなっちゃって、私とも話してくれなくなって、結局友達としていれなくなっちゃいます」
すごい理由だな。独占欲丸出しじゃないか。
こーゆーところから恋も始まっていくんだろうか?
「とりあえずは滝くんとあの女の恋路を邪魔したいと思います」
「お、おう。なんか急に積極的になったな」
「だって友達がいなくなるのはいやですから」
「…そっか。まぁ吉田が決めたことだから俺は何も言わないけどさ」
「途中経過とか報告したほうがいいですか?」
「いや、大丈夫。でもやりすぎてケンカとかするなよ?」
「滝くんとですか?」
「その相手の子だよ。物理的に止めに行くのはダメだからな」
「わかってますよ。穏便にやります。むしろ隠密にやります」
忍者かよ。
とにもかくにも、吉田はどこかすっきりしたような感じになっていた。
相談に乗ってよかったかもしれない。
まぁ俺は何もしてないけど。
「じゃあ教室戻ります」
「おう。ちゃんと授業受けろよ」
「はい。ではありがとうございました」
そう言ってペコリと頭を下げて出ていく吉田を見て思った。
青春だな。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
久々の吉田回でした。
吉田回は書いてて楽しいです。
今日はちゃんと13時投稿できました。
間違えませんでしたよw
次回もお楽しみに!




