夜の密会
月日は流れ、瑠璃ちゃんも2年生に進級した。
毎日瑠璃ちゃんを見ているせいか、そこまでの成長は見えないけど、ふとリビングに飾ってある小学校の卒業式の時の写真を見ると、大きくなったなとは思う。
「正親さん?」
「ん?」
夕食を食べ終わり、俺は明日以降の授業のスケジュール組み中。瑠璃ちゃんはテレビを見ながら誰かとメール。いつものメンバーの誰かだろう。
瑠璃ちゃんは、進級するにあたって、笹木さんと同じクラスになれたらしい。6クラスある中で、一緒のクラスになれたことに喜んでいた。ヒロトくんと怜央くんと亜里沙ちゃんはそれぞれ別のクラスになってしまったようで、運が良いのか悪いのか、内海くんは今年も瑠璃ちゃんと同じクラスになったらしい。
「明日なんだけど、キララちゃんの家に泊まりに行ってもいい?」
今日は木曜日。
「迷惑じゃないならいいよ」
「やった。じゃあ行ってくるね」
ニコニコしながらメールを打つ瑠璃ちゃん。
「というわけで、今日の夜暇なんだけど、ウチくる?」
『いくいくー!』
と恭子に連絡したところ、二つ返事どころか即答でした。
恭子も進級に当たって、実習・テスト・レポート・ピアノ・工作などなどのおかげで、二人で会う時間はみるみる削られていた。瑠璃ちゃんには申し訳ないが、いい機会だったかもしれない。
とは言っても、特に何をするわけでもなく、一緒に家でのんびりとご飯を食べようという話である。
金曜日ということもあって、普通に学校もあったので、家に帰るのは8時頃になる予定だった。
恭子も俺に合わせて、そのくらいの時間に来るということで、別段急ぐこともせず、のんびりと仕事を終えて、デパ地下で買い物をしてから家路についた。
「ただいまー」
いつものように家に入ったのだが、今日は瑠璃ちゃんは家にいない。
返事が返ってくるわけもなく、静かな家の中をリビングへと向けて歩く。
瑠璃ちゃんがいないとここまで静かだったとは…
いつもならテレビの音や瑠璃ちゃんの足音やらで何かしらの音が聞こえるのだが、今日は新鮮だった。
恭子が来るまではまだ時間がある。
「なんか作るか」
なんとなく料理をしたい気分だった俺は、冷蔵庫を開けて前に買っておいたアサリを取り出し、キャベツと一緒に鍋の中に入れて酒蒸しを作った。簡単に出来るから時々作るんだけど、瑠璃ちゃんはあんまり好きじゃないみたいで、ほとんど俺のつまみ用となっている。
あっ、つまみで思い出したけど、酒がないな。
そう思って、近くのコンビニへと足を伸ばした。
ビールの6缶ケースを買い、マンションへと戻ってみると、入口のところに恭子が立っていた。
「あっ! やっと戻ってきた! せっかく連絡したのにどこ行ってたのさ」
「連絡? あーごめん。携帯、家の中だわ」
「うはー。連絡した私がバカみたいだわー」
「ごめんごめん。どうぞいらっしゃいませ」
一緒にオートロックの玄関をくぐり、エレベーターに乗って上を目指す。
家に入り、ビールを冷蔵庫に入れてから携帯を確認してみると、何件か恭子から連絡が来ていた。
なんとなく返信を送ると、恭子の携帯がピロリロリンと音を鳴らした。
「ん? って正親じゃん。遅いわ」
「あれ? 遅かった? 返信するのが礼儀だと思ったんだけど」
「いいよ。この距離なら口で言ってくれればいいっての」
「まぁ言葉じゃ伝わらないってこともあるし」
「こんな『今帰って家の中』なんてメールを今もらったって、見たらわかるし」
「はいはい。じゃあ席についてくだい」
「あのさ、今日はこっちで食べない?」
そう言ってソファのほうを指差す恭子。
まぁたまにはそっちで食べるのも悪くないか。
ということで、食卓にならべたおかず達をソファの前にあるテーブルの上へと移動した。
ソファに座ると、隣に恭子が座る。そして腕にしがみつくように座る。
「…食べないのか?」
「いいじゃん。たまにはこうやってイチャイチャさせてよ」
「まぁいいけど。じゃあお前も飲むか?」
「えっ、いいの?」
「…たまにはな」
「いやーお酒なんてこの間香恵と一緒に行った居酒屋ぶりだなぁ」
「あの俺がおごった日?」
「ううん。先週」
「だから外で飲まないで家で飲めって言ってんのに…。未成年飲酒とか言って捕まるのだけはやめてくれよ?」
「大丈夫大丈夫」
「あんまり周りに迷惑かけると…」
「今日はそーゆー話をする日じゃないでしょ。それに私周りに迷惑かけるようなことする子じゃないのは、正親が一番良く知ってるでしょ?」
確かに。
こいつは優等生なのだ。
俺は返す言葉がなくて、ビールの缶を一口飲んだ。
「ちょっと! 乾杯は?」
「あっ」
「まだ私開けてもいないのに…」
「ほれ乾杯するぞ。開けた開けた」
いそいそと缶を開ける恭子。
「じゃあおつかれー」
「おつかれー」
ポコンと互いの缶を当てた。
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次回もお楽しみに!




