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親友と裏声とギャル語

学校を出て、地下鉄の改札を目指して歩いていた時だった。


「た-けだせーんせっ!」


なんかすごい気持ち悪いオカマみたいな声が聞こえた。

きっと俺のことを呼んでいるわけではないと思ったので、無視して歩き続けた。

きっと幻聴か何かだろう。きっとそうだ。きっと疲れてるのかもな。今日はゆっくりして早めに寝よう。


「ちょっ! 正親先生? あれ? 聞こえてへんの? 無視? 虫虫大行進的な? あっ、ごめんなさい。ごめんって。無視しないでもらえます? もしかして…俺のこと見えてへん? 正親くーん。俺やでー。オレオレ。忘れちゃったのかなぁ?」


超ウザイ。仕方ない。


「おー。宏太(こうた)じゃん。久しぶりー」

「ひ、久しぶり。って、急にそうなるんかい」


親友の中尾宏太。

高校の頃からの友達で、一応親友というポジションにいる。


「なんか気色悪い声が聞こえてたんだけど、なんか気づいた?」

「さぁ? 誰やろな? …気色悪いってひどくないか?」

「だから酷い声だったんだって……ププッ」


このへんで俺の笑いの沸点が限界を超えて溢れ出してしまった。

そしてひとしきり笑うと、息を整えて深呼吸をする。


「ハァハァ。マジで気色悪くて焦ったわ」

「こう見えても女声には自信あったんやけどなぁ。武田先生。ウチ寂しいねん」


宏太がカスカスな裏声でそう言うと、俺はすごい冷めた顔をして歩きだした。

そんな俺を慌てて追いかけてくる宏太。


「おこなの? 正親ってばおこなの?」

「なんだよそれ。意味わからん」

「はぁ? 高校教師やってるのにそんなのもわからへんのか。もうちょっと勉強したほうがええで」

「高校って関係あるのか?」

「なんかギャル語らしいで。『怒ってるの?』って意味らしい。もっと進化系があんねん」

「進化しちゃうの?」

「そうなのー」


またカスカスな裏声で喋った宏太に、ついつい走り出そうとしてしまったが、進化系も気になったので心を沈める。素晴らしき好奇心。


「『おこ』の上が『まじおこ』で、その上が『激おこぷんぷん丸』やねん。その上もあるんやけど長くて忘れたわ」

「なにそれ。ホントに使われてんの? 一回も聞いたことないんだけど」

「せやったら今度授業中に使ってみたらええやん」

「どういう状況で使うんだよ」

「宿題忘れてきた生徒に対して『先生、激おこぷんぷん丸だぞ!』とかってゆーてみいや」

「うわー。恥ずかしー。俺はそんなこと言えないわ」

「えー。なんでやねん。面白そうやん」

「面白さとこれからの教師生活を天秤にかけたら、教師生活を優先するだろ」

「あっ。練習がてら、天野ちゃんにでもやってみたらええんやない? 彼女やったら別に恥ずかしいとかないやろ」

「……どうして俺がやること前提なんだよ」

「んーこれもダメか。じゃあ瑠璃ちゃんにやってみるか? でも瑠璃ちゃんって流行とかに疎そうだからなぁ」


どうしても俺にやらせたいらしく、あーでもないこーでもないと頭を悩ませている宏太。


「俺じゃなくてお前がやれよなー」

「俺が瑠璃ちゃんに? あっ! そういえば引っ越したんだよな?」

「イヤ、ヒッコシテナイヨ」

「俺正親くんのお家に行きたいなー」

「いいって。遠慮していいから来なくていいよ」

「そこは『ウチくる?』『いくいくー!』の流れやろ」

「また古いネタ持ち出して…」


こうなったらテコでも動かないし、4tトラックでも引けない精神を持っている宏太が諦めるはずも無かった。

という訳でとある条件をつけて、俺の家へと招待した。

その条件とは、瑠璃ちゃんに『激おこぷんぷん丸』を知っているかどうかを試してもらうということだった。

もし知っていれば、俺は明日の授業で宿題を忘れてきた生徒にそれをやらなければならない。


「ここ!? めっちゃ豪華やん! うわっ! オートロックやん! このオートロックかっこええなー」

「オートロック自体別に珍しくないだろ」

「わかってへんなー。そんじょそこらのオートロックと違う感じがプンプンしてるやないか」

「いや、わからん」


そして5階に上がり、玄関を開けて帰宅。


「ただいまー」

「おかえりー」


玄関でそう言うと、奥から瑠璃ちゃんの声が聞こえてきた。


「お邪魔しまーす!」

「えっ!? ちょっと待ってー!」


宏太が俺の声の後に続いて言ったとき、瑠璃ちゃんの焦った声が聞こえてきた。

なんだろ?


「待ってってさ」

「なんだろ? 見てくるわ」


宏太を玄関に残して、俺だけ靴を脱いで上がる。

廊下を抜けて扉を開けると、青いパジャマを着た瑠璃ちゃんが自分の部屋に入っていくのが見えた。

パジャマ姿を見られるのが恥ずかしかったのか。すっかり年頃の女の子になってきたなぁ。かと言ってパジャマ姿でダラーっとしてる姿を見られてもなんとも思わなくなってきたら、それはそれで嫌かも。

そして瑠璃ちゃんが着替え終わり、ジーパンとパーカー姿の瑠璃ちゃんが部屋から出てきた。


「大丈夫?」

「うん。宏太さんだよね?」

「そう。嫌なら帰ってもらうけど」

「ぜんぜん大丈夫」


瑠璃ちゃんの了解も得たところで宏太を呼んで中に招き入れる。

すると廊下をドタドタと走ってくる音が聞こえて、ガチャッと勢い良くドアを開けた宏太に、俺と瑠璃ちゃんのからだがビクッとなった。


「瑠璃ちゃん! いつまで待たせてんねん!」

「ご、ごめんなさい…」

「もう激おこぷんぷん丸だぞ!!」


そして沈黙が流れた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


ネタは熱いうちに打て。

そうもう一人の自分に言われたので、ネタ担当の宏太にお願いしてみましたところ、快くOKしてくれました。


次回もお楽しみに!


本日13時より、おじぃさんのほうでコラボ企画の『女の子、神様に会いました』が掲載されるようです。

興味がある方は、そちらもお楽しみくださいませー。

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