お誕生日
「おめでとー!」
パン! パン!
瑠璃ちゃんの声と共に、俺と瑠璃ちゃんが持ったクラッカーが音を立てた。
「ありがとー!」
そう言ってお礼を言うのは、本日の主役である恭子。
今日は、恭子の誕生日で、その誕生日パーティーを我が家で行なっているのだ。
パーティーとは言っても、平日なので豪勢なものではなく、デパ地下で買ってきた美味しそうな惣菜と、瑠璃ちゃんのセンスに任せて買ってきてもらったケーキがテーブルに並んでいるだけだ。パーティーと言うには物足りないが、普段の食事よりはだいぶ奮発している。そういう意味では豪勢だ。
外食にしなかったのは、ゆっくりのんびりしたいという恭子の希望だった。
なんでも、ちょっと前にいった大阪の短期大学への旅行で、ほとんど毎日外食だったらしい。それが原因なんだとか。
そして『いただきます』という声とともにパーティが始まった。
とは言ってもただの恭子を招いての夜ごはんなのだが、瑠璃ちゃんが一番楽しそうで何よりです。
「大阪はどうだった?」
「暑かったよー。こっちだと長袖じゃないともう寒いけど、向こうは10月頭でも暑かったからね。毎日半袖だった」
「えー。同じ日本なのにビックリだわー」
「私もビックリしたもん」
驚く瑠璃ちゃんを見て、恭子が笑いながら言う。
「なんだっけ、通信の単位取りに行ったんだっけ?」
「そんな感じ。でも授業はほとんど映像見てるだけだった。超しんどかった」
「睡魔との戦いか」
「激闘だったよ。でも学校が終わっちゃえば、あとは自由時間だから、結構探検した。あ、そうそう。暑さにやられて、鼻血とか出してる人がいた。全然止まらなくて殺人現場みたいになったんだってさ。私見てないけど」
「うわー…大変だねぇ」
「でも本人、めっちゃ笑ってたけどね」
恭子が惣菜のサラダを口に入れた。
食事中になんちゅう話をするんだ。
そんなこんなで食事もあらかた食べ終わり、ケーキに手を付け始めた頃、瑠璃ちゃんが俺の腕をポンポンと叩いた。
そして耳元に顔を寄せてコソコソと言う。
「まだ渡さないの?」
「プレゼント?」
「うん」
「じゃあ渡すか」
「取ってくるね」
そう言ってニコッと恭子に笑いかけながら、自分の部屋へと走っていく瑠璃ちゃん。渡すの楽しみだったんだろうなぁ。
俺のはずっと後ろの棚に置いておいたから、それを取る。
「恭子ちゃん! お誕生日おめでとう!」
「おー。プレゼントだ。ありがとー」
元気よく言う瑠璃ちゃんに、恭子はお礼とハグで返す。
「開けていい?」
「うんっ」
「なにこれ可愛いー!」
小さな箱からは、ピアノのブローチが出てきた。
なんでも瑠璃ちゃんとキララちゃんと亜里沙ちゃんの3人で選んだんだとか。
「うおー嬉しいー! 大事にするね」
「んふふー」
「これは俺からな」
「ありがとうございます。どれどれー」
あ、俺にはハグ無しか。
縦長の箱を開けて出てきたのは例のネックレス。
「ネックレスだ」
「綺麗」
瑠璃ちゃんと恭子がそれぞれ呟く。
「ホントは指輪とかにしようかと思ったんだけどさ、そっちのほうがいいかなって思ってネックレスにしました」
「ううん。嬉しい。ありがとね」
「大事にしろよ」
「もちろん。ずっと大事にする。つけてもいい?」
「どーぞどーぞ」
そう言ってネックレスを取り出して付けようとするのだが、なかなか付けることができない模様。
仕方なく俺が恭子の後ろに回り込んで、髪を上げてもらいながらネックレスをつけてやった。
「どう? 似合う?」
「恭子ちゃん似合ってるよ」
「うん。さすが俺が買ったネックレスだ。綺麗だ」
「私は? 私は綺麗?」
「口裂け女かよ。いつもどおりだよ」
「さいですか。瑠璃ちゃんおいでー」
そう言って膝をポンポンと叩くと、瑠璃ちゃんが恭子の膝の上にぴょんと背中を向けて乗ってきた。
そして恭子が、俺のほうに顔を向けて目を閉じた。
俺は恭子に顔を近づけて、ゆっくりとキスをした。
「はぁ。とても素晴らしい誕生日だわー」
キスを終え、瑠璃ちゃんの頭に顎を置いた恭子が、しみじみとした感じでそう言った。
俺と瑠璃ちゃんは、顔を見合わせて『やったね』と笑いあった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
実はこの回で鼻血を出してる生徒がいましたが、それは僕です。
ただの実体験でしたw
『天野』と『恭子』を間違えない正親ですが、僕は一度全部『天野』で書き終わってしまって、最後に全部『恭子』に直したのは内緒です。
次回もお楽しみに!




