言いすぎた
武田さんを置き去りにして『ちょっと言いすぎた』と、そう思いながら体育館へと戻り、ヒロト達と合流した。
「怜央?」
「ヒロト、僕、ちょっと泣きそう」
「あー…」
ヒロトは僕の顔を見ると、僕から武田さんの居場所を聞いて笹木さんと滝さんを行かせた。
そして何も言わずに先を歩くヒロトに続いて歩いた。
学校を出て、いつもの下校ルートを歩く。
「怜央、何言ったか知らねぇけどさ、俺は怜央の味方だからな。瑠璃のことは友達としては好きだけどさ、怜央のほうが大事だ。だから瑠璃にフラれたって怜央と一緒に居るからな」
僕は前を向いたまま歩くヒロトの言葉に、足を止めて顔を上げて驚いた。
「…ヒロト、勘違いしてる?」
「え? 告白してフラれたんじゃねぇの?」
「違うって」
「はぁ? 怜央が泣きそうだって言うから、てっきりフラれたんだと…。じゃあなんなんだよ」
自分の勘違いがちょっと恥ずかしかったのか、少しキレ気味でそう言うヒロト。
キレてるのも口だけだってのはわかってる。本当に心配してくれてたのもわかってる。
長い付き合いだし。
「武田さんに酷いこと言っちゃったんだ。お節介焼きすぎとか」
「……」
「……」
「……で?」
「え? 終わりだけど…」
「いや、それぐらいなら笹木もよく言ってるじゃん」
「でも武田さん落ち込んでたし…」
「もしかして…怜央、ちょっと怒ったろ」
「…うん」
武田さんに思われてる内海くんにちょっと嫉妬して怒ってた…かもしれないけど、思い返すと怒ってたと思う。
「怜央って、怒ると恐いんだよ。顔がマジになるっていうか、真剣に怒るから恐いんだよな」
「えっ、そうなの?」
「気づいてねぇのかよ。あんまり怒らない奴が怒ると恐いっていうのあるだろ。あれって、怒り方がわからないから加減がわからなくて、本人はそういうつもりなくても周りからはすごい怒ってるように見えるってゆーせいなんだってさ」
「僕もそれってこと?」
「そゆこと。まぁ過ぎちまったことはしょうがない。明日ちゃんと謝れよ」
「うん…」
「まだなんかあるのか?」
歯切れ悪く答えてしまったせいで、ヒロトが僕の顔をのぞき込むように訪ねてきた。
最近はあんまりこーゆー話をする機会もないし、話してみようかな。
僕は歩きだして話した。ヒロトが隣に並ぶ。
「武田さんがさ、内海くん内海くんって言ってるのがちょっと嫌なんだよね」
「おー」
「……」
「ゴメンゴメン。怜央がそう言うなんて珍しいなぁって思ってさ」
「この際だから言うけど、僕けっこう武田さんのこと好きだからね?」
「知ってるっての。見てりゃわかるわ」
「まぁだから武田さんが内海くんにばっかり構ってるのを見ると放っておけないってゆーかなんていうか」
「もっと俺にもかまってーとかってことだろ? それを嫉妬って言うんだってよ」
「知ってるって。でもここで武田さんに嫉妬してることを言っちゃったら、今までの関係が崩れるような気がしちゃって、言うに言えなくて…それで結局今日言っちゃったわけなんだけどさ」
「……ハハ」
自嘲気味にそう言うと、ヒロトは小さく笑った。
「滝も笹木もお前のこと心配してたんだぞ。ずっとイライラしてるみたいだったし、今日も瑠璃が暇そうにしてる内海を見つけたときも、すごい顔してたみたいじゃん」
「すごい顔?」
「自覚なしかよ。滝が『私が瑠璃ちゃんを止めてなかったら怜央くんが何言うかわかんなかったもんー』って言ってた。滝にまで心配されるとかよっぽどだな。前はそんなに周りが見えないような男じゃなかったのにな。あれか。恋をしたら人は変わる、ってやつか」
「そんなの知らないし」
口を尖らせた僕を見てヒロトはまた笑った。
「まぁとにかくだ。これからも瑠璃と仲良くしていきたいなら、明日ちゃんと謝れよ」
「許してくれるかな?」
「瑠璃だぞ? 一度の過ちを許さないような心の狭いやつじゃないって。それはお前が一番よく知ってんだろうが」
「だよね。うん。決めた。謝りに行ってくる」
「うんそうそう…って今っ!?」
「もちろん! いつやるの?」
「今でしょっ! ってそーじゃねぇだろ」
「ハハハ。ありがと。ちょっと行ってくるね!」
「おいっ!」
慌ててるヒロトを置いて、今来た道を僕は学校へと引き返した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
こまけぇことは気にすんな!回でした。
久々の怜央くん目線。
次回もお楽しみに!




