床と机
学校祭まであと1週間。
今日から毎日、午後の5時間目は学校祭の準備になる。
今もその準備で、椅子と机を後ろに下げて準備をしてる。
「怜央くん、そっち持ってて」
「わかった」
「亜里沙ちゃんはそっち」
「うん」
二人に大きい模造紙を持っててもらって、私が真ん中をハサミでチョキチョキと切っていく。
折り目を付けた上をズレないように慎重に切っていく。
「瑠璃ちゃん、そんなにきれいに切らなくてもいいんだよ?」
「うん。だってそれに文字書くだけだし」
「でも綺麗に切りたいの」
「瑠璃ちゃんって、意外と几帳面だよねー」
私のクラスは、4人グループを作って、グループごとに昔の作曲家の特集を作るという展示だった。担任の先生が音楽の先生だから、先生が張り切って決めてた。
ベートーベンとかショパンとかモーツァルトとか。中には聞いたこともない作曲家の人もいたけど、『調べることも素晴らしい』って先生が言っていたので、みんな文句を言いながらも調べたりしていた。
1グループ1枚模造紙が配られていて、それに作曲家のことを自由に書いていくというものだった。
私のグループは4枚に分けて、1人1枚好きなことを書いてくるっていう風にした。
私と玲央くんと亜里沙ちゃん。そして…
「はい、内海くんも書いてきてね」
私は同じグループの内海くんに残りの1枚を渡した。差し出した紙を摘むようにして受け取る内海くん。
なかなか距離は縮まらない気がしてる。
内海くんは、他のグループにもどこにも入ってなくて、椅子に座ったままツーンとしてたので、声をかけたら同じグループに入ってくれた。
亜里沙ちゃんは、内海くんのことが怖いみたいで話してるところは見たことがない。
怜央くんも内海くんと話してないと思う。
2人のことがわかっているのか、内海くんも2人に話しかけようとはしないで、私たち3人からは少し離れた場所で話を聞いてるだけのことが多い。
せっかく内海くんと仲良くなるために同じグループになったのに、『これじゃあダメだ』とは思っているんだけど、正親さんにも言われたとおり焦らずゆっくりと仲良くなっていくから、私は無理に話しかけたりしないようにしている。友達を作るのは大変だ。
「あの下書き通りに書けばいいんだよね?」
「うん」
「うわー。下書きがあるって言っても、おっきい紙に書くの緊張するねー」
「先にこれにも下書きしないとね」
「でもあとから消しゴムで消すの大変じゃない?」
「じゃあ滝さんは、いきなりペンで書いちゃう?」
「無理っ! 頑張って下書きする!」
私と怜央くんはアハハって笑ってから、亜里沙ちゃんと同じようにあらかじめノートに書いておいたことを書き写していく。
こんな大きな紙に書いていくのは初めてだから、ちょっと緊張する。
私たちが床に紙を置いて書いていると、後ろのほうでガタガタと机を動かす音が聞こえた。
見ると、内海くんが机を一つ引っ張り出していて、その上にさっきの紙を置いて椅子に座って書き始めた。
私は一旦ペンを置いて話しかけた。
「机で書くの?」
「…床だと書きづらいし」
「そう?」
「床のガタガタしてるところでズレるじゃん。そのくらいわかるだろ」
「あー」
「それに机の方が書くの慣れてるし」
「そっか。頑張ろうね」
そう言うと、内海くんは紙に視線を戻してノートを見ながら書き始めた。
んー…
「私も机で書こっかな」
その言葉に内海くんは私を見たけど、『勝手にしろ』と言いたげにまた作業に戻った。
私は怜央くんと亜里沙ちゃんのところに戻って、2人に言った。
「私たちも机で書かない?」
「…内海くんと一緒に?」
「うん…イヤ?」
顔を見合わせて困ったような顔をする2人。2人はあんまり乗り気じゃないみたい。
私を見た亜里沙ちゃんが口を開いた。
「私は瑠璃ちゃんが机で書くなら私も書く」
「ホントっ?」
「じゃあ僕も書く」
「んふふー。じゃあみんなで机で書こっ!」
そう言って内海くんの机に3つ机をくっつけて、4つの机で四角を作って、内海くんの隣には私、私の向かいに亜里沙ちゃん、その隣に怜央くんが座った。
「……」
「……」
「……」
座ったのはいいけど3人とも黙って書いてた。
周りではみんな楽しそうに喋りながらワイワイと作業をしているのに、ここだけは静かだった。
「あのさ、モーツァルトって天才だったんだね!」
「そ、そうだね」
「うん…」
「……」
私が話題を振ると、怜央くんと亜里沙ちゃんは内海くんをチラチラと見ながら答えてくれた。内海くんは無視した。
私はなんかちょっと悲しかった。
「武田さん。とりあえずさ、これ書いちゃおうよ」
「…うん」
それから静かに4人で大きな紙に書く作業を続けた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しイェェェエガァァア!
瑠璃ちゃんはお節介焼きタイプですねー。
次回もお楽しみに!




