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まさかのご対面

意図せぬ形で天野と我が家族を対面させることとなってしまった。

本当ならばもうちょっと計画を練ってから会う予定だったのだけど、そんな間もなかった。


「えっ、正親の教え子なの!?」

「ってことは…正親って今いくつよ」

「28」

「ってことは…10?」

「あ、ははは。そうなりますね」

「この犯罪者! 生徒に手を出すなんて恥を知れ!」


兄ちゃんから言われた言葉に、何も反論できず、とりあえずおかずを摘みながら口をモグモグと動かした。

今日は、天野に全員が興味津々であり、俺の隣に座る瑠璃ちゃんの隣の天野に視線が集中していた。

座布団の上で正座をして、あはは、と困ったように笑っている天野。なんかスマン。

瑠璃ちゃんは、みんなの話を聞きながら時々笑ったりして、モグモグとおかずを食べながら話を聞いていた。

居間に長机を置いて座布団を敷いて座っている。俺の正面に母さん、その隣に兄ちゃん、そして天野の向かいに当たる場所に父さんが座っている。じいちゃんは、端の俺と母さんの隣。


「それで、正親のどこが好きなの?」

「えっと、なんだかんだで優しいところですかね。結局優しい人には惚れやすいんです」

「へぇー。正親がねぇ…」

「なんだよその目は」

「別にー」


兄ちゃんのむかつく視線を見返すと、そっぽを向かれた。


「正親さんは優しいですよ」

「まぁ瑠璃ちゃんには優しいわな。娘にするくらいだもん。その優しさの半分でもいから母さんに分けてやって欲しいもんよ」

「もういい歳なんだから、いい加減に子離れしろよ」

「なんで正親なの? 優しい人ならたくさんいるじゃん。俺も優しいよ?」

「それをここで聞いちゃいますか? うわー、恥ずかしいなぁ」


そういや、俺も天野がなんで俺のこと好きになったかとか聞いたこと無いな。

急に好き好きって絡んできたし。


「えっとですねー、入学して初めての数学の小テストなんですけど、私百点だったんですよ」

「おー。で?」

「それで、そのテストでうちのクラスの百点だったのが私だけだったみたいで、テストに『おめでとう。よく頑張りました』って書いてたんですよ」

「なにそれ。正親、そんなん書いてたの?」

「なんか俺のクラスで百点のやつがいて、嬉しかったんだよ」

「まぁなんていうか、そんなこと書くなんて珍しい先生だなぁって、その文字を見てたら、なぜかドキドキしてきてしまいまして、気がついたら好きになってたというわけです」

「なんという恋する乙女」

「で、まぁ香恵に…あー友達に相談したところ、『教師は難攻不落で鈍感だから、自分から行かないと気づいてももらえないって噂』と聞いたものですから、こう自分からガツガツと…思い出すと、私よくやったわぁ。ハハ」



そんなことで惚れられたのか。

天野のツボはよくわからないけど、なんかちょっと恥ずかしいな。

おかずの肉じゃがを口に放り込んだ時だった。


「正親」

「ん?」


向こうの方で話が盛り上がっている中、じいちゃんが俺に声をかけてきた。


「可愛い彼女じゃの」

「ん。自慢の彼女だ」

「瑠璃ちゃんもそうじゃが、あの子も大事にしてやるんじゃぞ」

「もちろん。どっちも大事だしな」

「どっちも平等にな。瑠璃ちゃんをおろそかにしてもダメだし、あの子をおろそかにしてもダメじゃ」

「わかってるよ」

「無理ならワシが瑠璃ちゃんを」

「断る」


俺の即答を聞いて、じいちゃんは小さく笑った。


「ホホホ。その様子なら安心じゃな。何かあったらいつでも連絡していいからな。というか連絡してくれ。ワシも瑠璃ちゃんに会いたいんじゃ」

「本音は隠せよ。まぁこまめに来るようにはしてるだろ」

「次はいつじゃ?」

「それは知らん」

「ふん」


まぁ遅くならないうちには会いに来るさ、と心の中で答えておいた。



「じゃあな」

「気を付けて帰るのよ?」

「わかってるって」


じいちゃんの家に泊まっていくという母さん達に玄関で見送られて、俺たちは帰路についた。

駅までは10分ぐらい。

俺は寝てしまった瑠璃ちゃんを背中に背負って、天野と並んで歩いた。


「瑠璃ちゃん、よく寝てるね」

「色々あったし疲れたんだろ」

「でも瑠璃ちゃんと仲直りできて良かった。ありがとね」

「俺はなんにもしてないだろ」

「いえいえ。ご謙遜をー」

「謙遜なんてしてねぇっての」

「そうなの? ふふ」

「なんだよ。ご機嫌だな」


スキップでもしそうなくらいご機嫌の天野。


「そりゃこーゆー形とは言え、ご両親とお兄さんとお祖父さんに挨拶できたわけだし、嬉しいに決まってるじゃん」

「発言が超大人だな」

「大人だしー」

「はいはい」

「えっと…正親は紹介できて嬉しくないの?」


……?

……今なんて?

俺がポカンと口を開けて天野を見ていると、天野が照れて顔をそらした。


「いや、その、一応恋人だし、付き合ってそれなりに経つわけじゃん? だから、その、そろそろ名前呼びとかしちゃったほうがいいのかと思って、呼んでみたんだけど…ダメかな?」


そう見上げるように言う天野。

まぁ嬉しくないわけないじゃないか。


「ダメじゃないさ。嬉しいよ、恭子」


言ってから恥ずかしくなって顔を背ける。


「うはー。たけ…正親の口から自分の名前が呼ばれると恥ずかしいわ」

「俺も名前で呼ぶのが新鮮すぎて、恥ずかしいわ」

「でも乗り越えねばならぬ壁…」

「だよな…」


そして二人で同時に見つめ合った。


「恭子。これからもよろしくな」

「こちらこそよろしく。正親」


見つめ合っていると恥ずかしくなってきて、前を向き直して歩き出す。


「あー…慣れていこうか」

「…そうだね。頑張ろう」

「ププッ」

「「あっ」」


その時、俺の背中から笑いが漏れ出したような音が聞こえた。


「あーっ! 瑠璃ちゃん、起きてるじゃん!」

「何っ!?」

「二人ともなにしてるのさー。聞いてるこっちが恥ずかしかったよー」


俺の背中から顔を上げて起き上がったらしい瑠璃ちゃんは、俺の背中をトントンと叩いて、下ろして欲しいということを告げた。

しゃがむと瑠璃ちゃんは自分の足で立って、俺と天野の手を取った。


「名前で呼ぶのが恥ずかしいの?」


そう素朴な疑問をぶつけてきた。

そして駅までの道のりで、俺と天野は、どれだけ苗字で呼び合っていたかが長かったかということを、瑠璃ちゃんに納得させるのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


いい最終回だった。


次回もお楽しみに!

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