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ご帰宅

ラーメンを食べたあと、俺の家へと天野を連れてきた。

コップに麦茶を入れてテーブルに置く。そしてソファに座る天野の横に俺も座る。

ここまでの道のりで、何か話すかとも思って天野がしゃべるまで待っていたのだが、結局何も話さず、ほとんど無言でここまで来た。


「武田ぁ…」


座ると同時に、天野が俺に抱きついてきた。

悩むと悩みすぎちゃうタイプだもんな。中村の時も心配してたし。


「あんまり溜め込まないで少しずつでいいから言えって言っただろ。ギリギリまで溜め込むのはお前の悪いところだぞ」

「だってこんなことなかなか相談できないじゃん…」

「中村とかいるだろよ」

「むー…武田のいじわる…」


天野が俺に抱きついたまま話すので、頭を撫でてあげた。

こーゆーところは放っておけなくなる。可愛いやつめ。


「ちゅーして」


天野がこっちに顔を向けてきた。

俺は天野の唇に自分の唇を重ねた。












夕方。

瑠璃ちゃんからメールが来て、そろそろ帰ってくるということなので、俺と天野は俺の部屋から出て、リビングのソファへと戻ってきた。

…まぁそういうことだ。


「とりあえず瑠璃ちゃんと仲直りしないとね」

「あー…そうだな。話し合ってくれ。できるだけフォローはするけど」

「いや、いい。これは私と瑠璃ちゃんの問題だから、武田は口出さないで」

「お、おう」


天野の意志の強さに押されてしまった自分がいた。


「ただいまー」


そして瑠璃ちゃんがご帰宅。

そのまま廊下から扉を開けてリビングにやってきた。

立ち上がった天野が視界に入って、瑠璃ちゃんは複雑そうな顔を見せた。その目は少し赤くなっているようにも見えた。


「瑠璃ちゃん。話があるの」

「…私も」


瑠璃ちゃんは天野のななめ向かいのソファに腰を下ろす。

俺は窓際に立って、二人が見える位置にいる。

瑠璃ちゃんが座ったのを見て、天野も腰を下ろした。そして口を開く。


「えっとね、私、瑠璃ちゃんと仲直りがしたいの。でも、私は謝りたくないし、悪いことはしてないと思うの。だからそのことを瑠璃ちゃんに納得してもらおうと思って…」

「…恭子ちゃんは、正親さんのことが好きなんでしょ?」

「…うん。大好き」

「私のことは?」

「瑠璃ちゃんのことも大好きだよ」


瑠璃ちゃんの質問の意図がわからず、天野は何も言えずにいた。

それに続けて瑠璃ちゃんが口を開く。


「今日ね、キララちゃんに言われたの。『瑠璃はもっと大人にならないとダメよ!』って。それで、正親さんの幸せも考えてあげなさいって怒られた」


そして俺のまっすぐに見つめる瑠璃ちゃん。


「正親さんは、恭子ちゃんといると幸せ?」

「…うん」


そして瑠璃ちゃんはうつむく。

チラリと天野を見ると、ちょうど目が合って、同時にまた瑠璃ちゃんへと視線を戻す。


「瑠璃ちゃん?」

「正親さんが幸せになるためには、恭子ちゃんと一緒にいることが一番だと思うの。でも私、正親さんのこと大好きだから、離れたくないの」


瑠璃ちゃんの声が震えてる。


「海で正親さんと恭子ちゃんが楽しそうにしてるの見てたら、なんかモヤモヤして、私が正親さんに海に行きたいって言ったのにって思っちゃって、でもみんなと海に来れて嬉しかったんだけど、なんかわかんなくなっちゃって、それで恭子ちゃんからメールが来て、なんて返したらいいかわかんなくて、返せなくて、そしたら返信しずらくなっちゃって…」


涙は流れてこなかったが、我慢していたであろう言葉が一気にあふれ出てきていた。

自分でも何が言いたいのかわからないんだろうけど、言いたいことは伝わってきた。

仲直りをするタイミングを見失ってしまった、ということになるのだろう。

そんなちょっとしたパニック状態になっている瑠璃ちゃんに、天野が声をかける。


「私は海にみんなで行けて嬉しかったよ。それに武田と海に来れて嬉しかった。だって私、武田大好きだもん。武田を好きな気持ちは瑠璃ちゃんにも負けないよ。でも瑠璃ちゃんがそれで悲しくなっちゃうなら、私は武田と別れてもいいと思ってるよ」

「えっ!?」


俺がビックリ。

思わず声が出てしまった。

瑠璃ちゃんも目を見開いて驚いて天野を見ている。


「だって私、瑠璃ちゃんも好きだもん。だから瑠璃ちゃんが悲しむなら、武田と別れる。別れても会えないわけじゃないし。ちょっと頻度が減るかなーぐらい」

「やだっ。それはイヤだっ」

「イヤだって言われても、瑠璃ちゃんは私と武田がイチャイチャしてるとイヤなんでしょ?」


答えに困ったのか、またうつむく瑠璃ちゃん。

天野…何考えてるんだ?


「瑠璃ちゃんはさ、きっと自分のポジションがわかってないんだよ」

「…ポジション?」

「そ。私と武田が楽しそうに一緒にいるとき、どうしたらいいかわかんないんじゃない?」

「…うん」


あーそーゆーことね。

俺は天野の言いたいことを理解したが、何もリアクションは取らずに、黙って二人を見続けた。


「私は、武田とイチャイチャしたいけど、瑠璃ちゃんとも遊びたいと思ってるんだよ? だから邪魔しにきちゃえばいいじゃん。私も武田も瑠璃ちゃんが大好きだから嫌な思いはしないよ?」

「そう、なの?」

「当たり前じゃん。だから瑠璃ちゃんは、自分のことが邪魔なのかなーとか考えちゃダメ。わかった?」

「…わかった」

「よし。そして、私とも遊ぼう! 3人で出かけよう! 3人で楽しめばいいじゃない! 実は二人で出かけても、瑠璃ちゃんのことが気になって、あんまりデートにならないんだよねぇ。あはははー」


おどけた調子で笑う天野。


「だからさ、瑠璃ちゃんは気使わなくていいからね? 気使われると、私も武田も逆に気になっちゃうし」

「気、使わないように…うん、頑張ってみる」

「まー…頑張らないで自然に過ごしてくれればいいんだけどー…まいっか」


そして天野は瑠璃ちゃんに向かって手を差しだした。

瑠璃ちゃんは不思議そうに手と天野の顔を見る。


「仲直りの握手」


瑠璃ちゃんが手を握ると、天野は笑顔で言った。


「これで仲直りね」


それを聞いたとたん、瑠璃ちゃんの溜まっていた何かが溢れ出して、天野に抱きつきに行って、そのまま泣いた。

困った顔をしながらも、天野は瑠璃ちゃんの頭を撫でていた。そんな顔をして、俺の方を見てから、天野も涙を流していた。

俺はやれやれと思いながら、まだまだ子どもな娘と、強がっていてもまだまだ子どもな彼女の元へと向かって二人の頭を撫でた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


察してください。

そーゆーことなんです。


次回もお楽しみに!

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