自慢の身体
「……」
「……」
「……」
何か視線を感じる。
ふとその方向を見てみると、そのへんの男性がこちらを見ている。そっちの男性も、あっちの男性も。
まぁ理由はハッキリしてるんだ。
「天野」
「何?」
「俺、もう出てもいいかな?」
「えー! せっかくの海だよ? もっと楽しまないと!」
「いや、そうなんだけど、他人の目ってあるじゃん?」
「…恥ずかしいの?」
「まぁ少し…」
海の中に入ってるわけだけど、天野が後ろから飛びついてきたり水をかけてきたりするもんだから…いや直接的な原因はこれじゃないのはわかってるんだ。
だって可愛くて健全な女子大生の水着姿なんて、世の男性諸君にしてみれば、立派なおかz…目の保養以外のなにものでもないわけで、つい見ざるを得ない。
天野はそーゆーのには疎いから気がつかないのかもしれないけど、俺はなんか恥ずかしい。
ホントは『俺の彼女すごいだろ! 超カワイイだろ!!』とか言ってもいいんだけど、知らないところからクラゲとか投げられそうで怖い。
でも天野だけならいいんだ。
「おらー!」
「ギャー!」
「アハハー!」
「ヒロトォ!」
「やべっ!」
「あっ…」
「スマーッシュ!」
「ばぶらっ!」
俺と天野も参加してるはずの『ビーチボールを落とさないで何回ラリーを続けられるか』というルールで始まったラリーなのだが、途中からヒロトくんと中村のスパイクの応酬になってきてしまい、今はルールー無用でボコスカとビーチボールをぶつけ合っている。
その中村がナイスバデーなので、そちらにも男性諸君の目が行ってしまっている。
この女子大生コンビ、ヤバイな。目に毒だ。
そんな具合で俺たちは海を楽しんでいた。
「ムッ。殺気!」
俺は何かを感じた。
その方を見てみると、瑠璃ちゃん、笹木さん、亜里沙ちゃんの3人が、高校生2人に声をかけられているようだった。
「なぁいいじゃん。俺らと遊ぼうぜー」
「でも正親さん達と来てるし…」
「そうよ! あんたたちになんて興味ないの!」
「はぁ? 誰だよ、正親さんて」
「あなたたちには関係ないでしょ。どっか行ってください」
「ほらっ! 瑠璃もビシッと言ってやんなさい!」
「えっと…正親さんと来てるので、遊べません。ごめんなさい」
「だから正親さんって誰だよ」
「俺だよ」
後ろから近づき、一人に海の天然水を手ですくって口の中に入れてあげた。
そして振り向いたもう一人の彼には足払いを一発。浅瀬だからすぐに水中に潜って楽しそうだ。
「うちの瑠璃ちゃんに手を出すとはいい度胸だ。さて、覚悟は出来てるんだろうな?」
「ゲホッゲホッ。なんなんだよ! ちょっとナンパしてただけだろ! お前には関係ないだろ!」
「関係大アリじゃ」
「この人が正親さんです」
瑠璃ちゃん、何律儀に紹介してるのさ。
まぁいいや。乗るか。
「どうも正親さんです。君たちはどこの学校?」
「んだよ…冷めたわ…」
「…行こうぜ」
そう言って立ち去っていく男子二人。
「そぉい!」
そんな掛け声と共に、背を向けた二人に向かってビーチボールが飛んできて、それが片方の男子の後頭部に直撃した。
天然水を飲んだ男子がふり向いて叫ぶ。
「誰だよ!」
「あーすんませーん。手元が狂っちゃいましたー」
そう言ってペコリと頭を下げたのは、中村とヒロトくんだった。方向的にヒロトくんが強打をかましたのだろう。
全く悪びれずに二人で笑顔で頭をペコペコと下げている。
「ナンパの邪魔しちゃいましたー? ごめんねー」
中村のそのセリフに、周りのギャラリーがざわざわし始める。
「んだとー?」
「あいつら、俺たちの目の保養をナンパしにきたのか?」
「抜け駆けはダメだろ?」
「あの白ビキニの子と一緒にいる男ムカツク」
「若造がっ」
「海の藻屑にしてやろうか」
「クラゲの仲間にしてやればいいんじゃね?」
「誰か大穴掘れー。埋めてやろうぜー」
「俺に任せろー。バリバリー」
そんな声が聞こえてきたせいか、男子二人はそそくさと走って去っていった。
その後ろで中村ヒロトくんと周りの男たちが親指を立ててニカッと笑い合う。何その連携プレイ。
天野が俺に近づいてきて声をかけてくる。
「大丈夫だった?」
「俺はな。瑠璃ちゃんは大丈夫?」
「うん。大丈夫」
それは良かった。まさかナンパされる日が来るなんて…でも瑠璃ちゃんも可愛いからナンパされても仕方ないわな。
今度からはもっと注意深く周りを警戒しないとダメだな。
それにしても中村とヒロトくん、グッジョブ。
俺の中でのヒロトくんポイントが上がった。
とまぁそんなこともあったが、俺たちは海を思う存分堪能した。
そして夕日を見てから車で帰った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
…オチがなかった!!
次回もお楽しみに!




