レンタカーの運転係
今日というこの日のために、俺はわざわざワゴンを借りた。
ワゴンと言っても、スーパーで安売り商品が乗っているアレではない。まして怪獣が横スクロールアクションをしていく昔のゲームでもない。
車のワゴンだ。
そんな車内には、瑠璃ちゃんを初めとし、怜央くん、ヒロトくん、笹木さん、滝妹、天野、中村の7人が乗っている。
俺はもちろんドライバー。助手席には誰もいない。全員後ろに乗ってワイワイガヤガヤと好き勝手話している。
おじさんはのんびり会話を聞きながらの運転係さ。寂しくなんかないもん。
事の発端は些細なことだった。
「海に行きたいなぁ」
瑠璃ちゃんがそう呟いたのだ。
『ならば連れていってやろう』
からの、
『友達も誘えば?』
からの、
『えっ、そんなに? じゃあでかい車でも借りてみんなで行くか』
となった。
瑠璃ちゃんが天野に話したらしく、その天野から中村の参加も決定したらしい。
そして瑠璃ちゃんは、いつものメンツに加え、最近仲良くなりつつある滝の妹の亜里沙ちゃんを仲間に加えてきた。
そこまで遠い距離ではなかったので、全員を家まで迎えに行き、それから海へと向かっている最中である。
天野は助手席に座ってくれるかと期待していたのだが、中村に会うのも久しぶりだということで、俺が我慢することとなった。大人だし。
道はわかるからナビはいらないんだけど、いかんせん話し相手がいない。
話し相手のいない運転なんて、つまみのないビールのようなものだ。
つまり、『物足りない』ということだ。
とはいえ、ハンドルを握って事故らないように走らせなけれないけないため、後ろの会話に集中することもできなかった。瑠璃ちゃんがいつものメンツとどんな話をしているのかとかちょっと気になってたんだけど、それはまた今度の機会になりそうだった。
正親さんが運転している車内。
車の中は三列シートで、運転席には正親さん。
三列のうちの真ん中には恭子ちゃんと香恵ちゃんと私。
その後ろには玲央くんとヒロトくんとキララちゃんと亜里沙ちゃんが乗っている。
亜里沙ちゃんは、正親さんのクラスにお兄ちゃんがいるみたいで、その話をしているうちに仲良くなって、今日の海に行く話をしたら来てくれることになった。
今は車の中で私と恭子ちゃんと香恵ちゃんが背もたれから身を乗り出して後ろを向いてみんなで話している。
「それで、瑠璃はどんな水着?」
「一緒に買いに行ったじゃん」
「私が聞きいなー」
まだ私の水着を見てない香恵ちゃんがそう言った。
これから見るんだから言わなくてもいいじゃん、ちょっと恥ずかしい。
「白いワンピースの水着」
「おー。少年たちも嬉しいだろ?」
「べ、別にー。そんなに気にしてなかったし」
「僕も…」
「ケケケケ。素直でよろしい」
香恵ちゃんがヒロトくんと怜央くんに話しかけては笑っている。
その横で恭子ちゃんがキララちゃんと亜里沙ちゃんに向かって話しかけていた。
「じゃあキララちゃんと亜里沙ちゃんはどんな水着?」
「私は黄色いセパレートの水着よ! 超可愛かったんだから!」
「ひまわりの模様描いてたよねー」
「私はピンクの水着。フリフリいっぱいついてるかわいいやつ」
「ほう。中学生はまだ可愛いという基準で決めるのか。なんか懐かしいなぁ」
「あたしらは悩殺目的だもんね。うわー、恭子エロいわー」
「誰もそんなこと言ってないじゃんっ」
「いいのいいの。隠さなくて良いのよ。どうせ『正親ってば、この水着、褒めてくれるかしら?』とか思いながら買ってたんでしょ?」
「ぐっ…」
恭子ちゃんが『なんでわかった』という顔をする。
香恵ちゃんは恭子ちゃんのことをなんでもお見通しらしい。前にそう言ってた。
私の水着は、自分でどれが良いのかわかんなくて、一緒に買いに来たキララちゃんに選んでもらった。
帰ってから買ってきた水着を正親さんに見せたとき、『キララちゃんグッジョブッ!!』って言いながら喜んでいたので、きっと私に似合っていたんだと思う。キララちゃんありがと。
ふとふり向いて正親さんのほうを見てみると、まっすぐに前を向いて運転していた。
私が『海に行きたいなぁ』って言ったら、車まで借りてくれてみんなで行くことができた。
サラッと私の願いを叶えてくれる正親さんは大好きだ。
私はみんなで食べていたポッキーを一本持って正親さんに近寄った。
「正親さん」
「なした?」
運転中のよそ見は危ないので、前を向いたまま正親さんは答えた。
「これ、今日はありがと」
口元にポッキーを差し出すと、一瞬だけ目で確認して、パクッと口でくわえた。
「ん。ありがと」
「運転頑張ってね」
「はいよー」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
次回はみんなの水着姿・・・は今回紹介しちゃってますよねー。
海水浴回です!
次回もお楽しみに!




