サッカー部
放課後。
いつものようにサッカー部に顔を出すためにグラウンドへとやってきた。
今日は坂本さんが休みで、キャプテンの指示で動くようにと指示を出している。
俺の姿が見えたのか、キャプテンの阿部が寄ってきた。
「おーっす。どんな感じ?」
「今日はハーフコートで試合形式にしてます」
「ほー。で?」
「坂本さんに言われたように、声出しとオーバーラップの練習、守りはディフェンスの連携確認っすかね。攻めはボールを散らしながら上がってきたサイドバックにあずけてからのクロスに合わせるのをメインでやってます」
さすがキャプテン。意図をキチンと汲み取っている。
あんまりダラケた様子もないみたいだし、これなら次の試合もいい感じだろう。
「それで最後にまとめっぽく試合して、軽く流して、終わりにしようかと思ってるんですけど、いいっすか?」
「いいんじゃない? 坂本さんから言われてた部分もちゃんと組み込んでるし」
「はー良かったー。松澤達と話して決めたんすけど、武田先生に『ちょっと…』とか言われたらどうしようかと思ってたんすよ」
安堵の表情を見せる阿部。
阿部はキャプテンで、松澤が副キャプテン。同じクラスの二人はとても真面目で、昼休みとかもサッカーの話で盛り上がったりしてるらしい。時々部活画終わってから坂本さんと三人で練習のことについて話しているのも見かける。
阿部はスタミナ豊富なサイドハーフ。両利きで左右の足どちらでも同じように蹴れるため、戦局に応じてポジションチェンジなんかもしばしば。
松澤は完全に点取り屋。身長こそそこそこだが、持ち前のスピードと飛び出しの良さでチームの得点の大半を量産している。
二人の活躍でうちの部活が大会を勝ち進んでいると言っても過言ではなかった。
もちろん他の部員が下手なわけではないが、二人が群を抜いて上手いのは誰の目から見ても分かることだった。
「俺はあんまり練習メニューに文句とか言えないっての。じゃあ俺が審判やろうか?」
「マジっすか」
「セルフジャッジだと大変だろ。笛あったっけ?」
「あー、坂本さんしか持ってないんすよ」
「じゃあ無くてもいいや。その代わり審判に文句言ったら退場にするからな。一発レッドな」
「文句言いませんって」
そして阿部が部員を3チームに分ける。サッカー部は全部で31人だが、不真面目な部員もいるわけで、今日は28人。1チーム8~9人になるように分けた。
試合は15分ぐらいで、AとBが試合をし、勝った方がCと交代し、最後にCと勝った方で試合をする。
B側がビブスをつけて、試合開始。
Aチームは松澤を攻撃の軸としたチームとなり、Bチームは阿部を中心としてパス回しをしていくチームとなった。
もう一人パスが上手い奴がいるため、普段はサイドにいる阿部がセンターに入り、周りに指示を出しながら器用にパスを出していく。
松澤は常に最前線で待機し、相手の最終ラインから飛び出す機会を伺っているようだった。
試合は一方的とまではいかなかったが、阿部率いるBチームが勝利した。
序盤こそ我慢していた松澤が、なかなかボールが回ってこないのに痺れを切らし、ボールをもらいに下がるのだが、テクニックでは上の阿部にことごとく防がれてしまっていた。ボールをキープしても、松澤の早い攻めについていける者が少なく、その少ない者も阿部の指示で潰されてしまった。
結局カウンター狙いの松澤は、阿部という司令塔に勝つことはできなかった。
普段の試合ならばここまでうまくハマることはないのだろうが、そこは互いの仲の良さがアダとなった結果だろう。
俺は終了を告げるために大声で『しゅーりょー!』と叫んだ。
「だーっくそ! 純! 邪魔ばっかすんなよ!」
「ハハハ! これが戦術というやつだよ!」
松澤の負け惜しみに、阿部がふんぞり返って答えた。
ホント仲良いな。
その後、AとCが試合をし、BとCが試合をし、軽くランニングとストレッチで流して部活は終わった。
ぞろぞろと部員たちが帰っていく中、部室の鍵をもらってから職員室に戻ろうとしていた俺の元に、阿部と松澤が俺のところにやってきた。
松澤はボールを持っていて、校舎の壁にボコボコとぶつけながらの参加だった。
「どうでした?」
「試合のこと?」
「やっぱ純が居ないとパスが回ってこねぇ」
「まぁアレは完全に阿部の戦略勝ちだったな。松澤にパスが来ないようにボール運びしてたみたいだし」
「そうしないと泰史に勝てないし。前線でボール渡したら止まらないじゃん」
「簡単に止められるかっての」
何故か偉そうに答える松澤。
「松澤は人を使うことを覚えたほうがいいよな」
「そうそう。泰史だって、もっとあれこれ指示出せばいいのに」
「そんなことしてたら飛び出すタイミングとかわかんなくなるじゃん」
「だから坂本さんにも単細胞って言われるんだっての」
「単細胞じゃねぇし」
松澤がボールを壁に当てて阿部を狙うが、それをひょいとよけて松澤にボールを取りに行かせていた。
「お前らホント仲良いよな」
「長い付き合いっす。幼馴染みだし。好きな選手が違うから、プレイスタイルが全然違うんすけど、サッカーが好きって気持ちは一緒ですから」
「へー。その気持ちを忘れないようにするんだぞ」
「…急に先生っぽいこと言ってどうしたんすか?」
…こう見えても先生なんだけど。
なんか俺って、生徒たちから先生だと思われてないのかな。近所のお兄さん的な?
仕方ない。今度天野に聞いてみよう。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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サッカー部回です。
専門用語が多くてわからない方はごめんなさい。
次回もお楽しみに!




