二人の出会い
高校一年の秋。
北海道ではそれなりに寒くなってきた頃、うちのクラスに転校生がやってきた。
名前は中尾宏太。関西からやってきた転校生。
「どーも! 中尾宏太ですー。皆さんと仲良くなるためにやってきましたー。アハハー。よろしくー」
バリバリの関西弁で挨拶してクラスの笑いをとったその男は、俺の後ろの席に案内されて着席した。
俺の第一印象としては、『声がでかいやつ』だった。
後ろでは周りの席の生徒に挨拶しているらしく、陽気な関西弁がコソコソと聞こえていた。
「ほれ、君にもアメちゃんあげるわ。お近づきの印や」
そう言って後ろから俺の肩に飴を乗せてきた。
「あー…どうも」
「俺の名前は宏太や。君は?」
「武田」
「名前や、名前。下のお名前は?」
「…正親」
「まさちか? ずいぶん古風な名前やなぁ」
「じいちゃんが付けてくれたんだよ。文句あるか?」
「いや、無い。家族を大切にするのは良いことや。じいちゃんを大切にしてる正親はいい奴だ」
「はぁ?」
「そんなわけで、俺と正親は今日から友達なー」
こんな強引な感じで最初は始まった。
でも悪い気はしなかった。これが宏太の人間性なのかもしれないと思った。
その後、休み時間も昼休みも放課後も俺に『あそこを案内しろ』だの『あっち行ってみたい』だの『誰か可愛い子紹介しろ』だの、あれやこれやとわがまま言いたい放題だった。
そんな宏太は、俺の家にまで付いてきた。
「初日から俺の家来るとか意味わからん」
「ええやんかー。正親のお母さんに会ってみたいわー」
「やかましい。俺に触んな」
「なになに? 触られるの嫌いなん?」
「ほぼ初対面のやつに馴れ馴れしくされた挙句ボディタッチまで許してたら、なんか嫌だ」
「うわー曖昧ー。曖昧模糊ー」
「さっき授業で出てきた単語を適当に使うな」
「もやっとしてる感じやろ? だいたいあってるやん」
なんなんだこいつ。ホントよくわからん。
そんなこんなで家の中に入ると、母さんと宏太は何故か意気投合しおった。
「お母さん綺麗ですねー。とても二児の母とは思えない!」
「あらホント? 宏太くんもなかなかイケメンよー」
「いややわー、イケメンだなんて…ホンマですか?」
「「アハハハハ」」
楽しそうに話しているのを邪魔するのもアレなので、俺は自分の部屋で待っていることにした。
「じゃあ俺上行ってるから、終わったら来て」
「あら正親。お弁当箱出してね」
「あー忘れてた」
カバンの中から弁当箱を取り出そうとカバンをガサゴソしていると、宏太が思いだしたように言った。
「せや。正親のお弁当はお母さんが作ってるんですか?」
「そーよー」
「めっちゃうまかったですー」
「食べたの?」
「おかずをちょこちょこっとだけ」
何が『ちょこちょこっと』だ。横から俺のおかずのチキチキボーンとかイカ天とか勝手に取っていきやがって。『等価交換じゃないと不公平やろ?』とか言って、俺には食べかけのメロンパンを差し出してきたくせに。これは不平等交換だ。
「うちのオカンは『弁当なんてめんどくさいから、購買とかコンビニとかで買ったらええやん』って毎日500円渡すだけですよ」
「あらま」
「だからこういう手作りなお弁当は久しぶりに食べましたー」
「じゃあときどき宏太くんの分も作ってあげよっか?」
おいおい。
「母さん」
「いいのよ。私が好きでやるんだから」
「マジですか! それは嬉しいですー!」
母さんは、俺が持っていくことなんて微塵も考えてないんだろうな。
弁当って意外と重いんだぞ。
そんなこんなで母さんが宏太の分の弁当をつくるようになって、そのお礼にと宏太のおばさんからもたこ焼きパーティに誘われたりで、家族ぐるみの付き合いが始まっていった。
親同士が仲良いと、子どもも必然と一緒にいる時間が増えていくもので、その時間の分だけ俺と宏太の中は深まっていった。
そしていつしか親友と呼べる間柄にまでなったというわけだ。
「たしかこんな感じだったよな?」
「まぁだいたい合ってるな。でも正親って俺のことウザイとか思ってたん?」
「思ってないよ。うっとおしいとも思ってないよ。声でかいとは思ってたけど」
「それはそれで酷いわ」
「じゃあ正親さんのお母さんと宏太さんのお母さんは仲良しなの?」
「今も仲いいのか?」
「ん? 昨日ウチで飲んでたで」
「マジかよ」
「仲良しなんだねー」
「仲良しみたいよー」
「俺と正親みたいに仲良しやでー」
「くっつくな!」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
ちょっとリクエストがあり、ここに組み込ませていただきました。
『正親と宏太が仲良くなった経緯』でございました。
いますよねー。なんか馴れ馴れしい奴。
超絶人見知りの僕からしてみれば、そーゆー人は超絶苦手です。
次回もお楽しみに!




