ヘタレ
最近、4人で集まってもすることがない。笹木さんの言葉を使うなら『マンネリ』っていうやつだ。
だから今日も学校帰りに、近くの公園でとりあえず集まってブランコに乗りながら作戦会議をしている。
「さて。今日は何をする?」
「しのびやりたい」
「他は?」
「じゃあ鬼ごっこ」
「瑠璃。あんたそればっかじゃない。中学生にもなってそれは無いでしょ」
「中学生だってやりたいんだから仕方ないと思います」
あれもダメ、これもダメ。じゃあ何ならいいのさ。ぷんすか。
私が膨れていると、笹木さんが私のほっぺを両方から挟んで、口の中の空気を外に追い出した。
「ぶーっ」
「プププッ」
「もうっ。遊んでないで考えてよー。私しか意見出してないじゃん。何も無いならしのびしようよー」
「瑠璃。瑠璃が言ってるのは、『今日の夜ごはん、何食べたい?』って聞いて、『なんでもいいよー』って答えたから、『じゃあ納豆ご飯ね』って言うと、『それはちょっと…』って言われてる気分よ。わかる?」
「笹木さん。それは武田さんが言うセリフの例えだよ」
「ははは。バーカバーカ」
「バカってゆーなー!」
指をさして笑うヒロトくんの指を掴もうとしている笹木さん。
結局何も決まらない。
そんな中、怜央くんが口を開いた。
「たまにはこうやって喋ってるだけでもいいんじゃない?」
「何もしないで?」
「うん。学校だと休み時間ぐらいしか4人でしゃべってないでしょ? だからたまにはこうやってのんびりでもいいんじゃない?」
たしかに。
言われてみると、最近は学校で4人一緒の時間が少ないから、ずっと放課後は遊んでたけど、たまにはこういうのもいいのかも。さすが怜央くん。
「言われてみればそうかもな。遊んでばっかりだったし。瑠璃のせいで」
「私のせいなの?」
「ヒロト。怜央は違うわよ」
「ん?」
笹木さんがヒロトくんに近づいて、耳元で何かコソコソと内緒話をする。
それを聞いたヒロトくんが『おぉ』と声をあげてニヤニヤする。
「そーゆーことかぁ…」
「怜央くんは策士だもん。普通の手でくるわけないでしょ?」
「ちょっと、笹木さんっ! ヒロトに何言ったのさ!」
「別にー」
「俺も何も聞いてないぞー」
「また二人して僕をからかって…そんなんじゃないからね!」
「「はいはい」」
怜央くんが顔を赤くしながら、二人にニヤニヤされている。
また私だけ除け者にして…
「むー…」
「どうしたの、瑠璃ー? 妬いてるの? 仲間外れにされてることに妬いてるの?」
「違うもん」
「もー瑠璃可愛いー!」
そう言って私に抱きついてほっぺをプニプニしてくる笹木さん。
そんなことで私の機嫌が直ると思ったら間違いなんだからね。
「でも悪いのは怜央だから、俺と笹木には当たるなよ?」
「なんで僕のせいなのさ!」
「「だってヘタレだから」」
「ぐぬぬ」
「怜央くんのせいなの?」
「いや、僕のせいじゃない、はず」
「ほらヘタレー」
「何回俺たちがチャンスを作ってやってると思ってるんだ」
「フラグ折りまくりよね。あー瑠璃がかわいそうだわー」
そう言って私を強く抱きしめてくる笹木さん。
こう笹木さんに抱きしめられてばっかりいると、こうされるのも慣れてくる。ほっぺ触られるのも慣れてきたし。慣れってすごいや。
「ってゆーかヘタレって何?」
「ヘタレっているのはね、勇気と度胸が無い人間のことよ」
「ふーん」
怜央くんって勇気と度胸ないんだ。
「ごめん。武田さんも納得しないでくれる?」
「ダメなの?」
「ダメってわけじゃないけど…」
「別に怜央のことを言った訳じゃないわよ? ヘタレの意味を説明しただけじゃないの」
「はっ・・・」
「ククク。墓穴掘ったな、怜央」
「これで瑠璃も『怜央=ヘタレ』っていうことがわかったみたいね」
「ぐぬぬ…」
意地の悪い笑顔を見せながら、怜央くんに微笑みかけるヒロトくんと笹木さん。
「あっ、そうだ!」
笹木さんが思い出したかのように、急に私の方を見て言った。
「すごい今さらなこと言ってもいい?」
「どうしたの?」
「どうして私だけ苗字なの? ヒロトも怜央も名前で呼んでるのに、私だけ苗字っておかしくない?」
「だって最初っから二人のことは名前で呼んでたから。ずっと最初の呼び方だよ?」
「じゃあ私のことも名前で呼んでー!」
また私に抱きついてくる笹木さん。
笹木さんも名前で読んで欲しかったんだ。なんとなく最初から呼んでる呼び方で呼んでたから意識してなかったけど、言われてみれば笹木さんだけ苗字で呼んでるよね。
よしっ。
私は抱きついてきた笹木さんの背中に腕を回して抱きしめた。
「よろしくね。キララちゃん」
「瑠璃…」
私からゆっくりとからだを離した笹木さんは、ちょっと顔が赤くなっていた。
「…ちょっとドキッとしたかも」
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