挨拶は大事
私は正親さんに言われたとおり、内海くんにあいさつを返してもらうことから始めることにした。
でもその前にしておくことがあったので、私はいつもよりも早くお家を出て、ある場所に向かった。
もう足の痛みは全然なかったので、少し急ぎめに歩いて着いたのは、玲央くんとヒロトくんが学校に行くときに待ち合わせをしている郵便ポストの前だった。
そこにはすでに玲央くんが立って、ヒロトくんを待っていた。
私は深呼吸をしてから怜央くんに声をかけた。
「怜央くん。おはよう」
「えっ? 武田さん? どうしてこんなとこに?」
「ちょっとお話があって…ヒロトくんは?」
「ヒロトはまだだけど…話って? もしかして昨日のこと?」
「…うん」
怜央くんの目がちょっとだけ動いた。
そして申し訳なさそうに怜央くんは言う。
「昨日のことは僕が変なこと言っちゃったからだよね。ごめんね」
「ううん。実際にやったのは私だもん。怜央くんのせいじゃないよ。気にしないで?」
「……足、大丈夫?」
「うん。この通り平気だよ」
その場でぴょんぴょん飛んで、大丈夫なところを見せた。
それを見てホッとしたのか、怜央くんの顔に笑顔が見えた。
「そのまま帰っちゃったからビックリしたよ。折れてたのかと思った」
「あのあと病院でみてもらったんだけど、なんともなかったよ」
「そっか。なんともなくてよかったね」
「うん。ありがと。でも私、ヒロトくんが怒ってるところ初めて見たかも」
「ぼくも初めて見た。ビックリした」
二人で思い出して無言になってしまった。
あの時のヒロトくんはちょっと怖かった。私が止めに入っても全然止まらなくて、どうなるかと思った。
「瑠璃? 何してんの?」
と、怜央くんと話していると、ヒロトくんがやってきた。
とりあえず昨日のことを謝らないと。
「おはよう」
「ん。おはよ」
「あのね、私ヒロトくんに謝らないといけなくて」
「あー昨日のことか?」
「うん。私、ヒロトくんのこと嫌いじゃないからね?」
「知ってる」
「むしろ好きっていうか…」
「は?」
「だから内海くんと仲良くしてほしいの」
「なんで俺が…」
ヒロトくんが私から目をそらしてそう言った。
そして口を開く。
「だいたい、瑠璃だってあいつに怪我までさせられてるんだぞ? それでも仲良くなりたいって思う意味がわからん」
「内海くんは優しい子なの」
「はぁ…」
「…何?」
「昨日も怜央と話してたんだけどさ、俺と怜央が何を言っても、瑠璃は変わんないんだろうなぁって」
「そんなこと……」
あるかも。
もしここで二人に止められたとしても、振り切って行くと思う。
なんで怜央くんもヒロトくんもわかるんだろう?
「だから俺たちは応援するしかないんだろうなって。内海はあんまり好きじゃないけど、むしろ瑠璃に怪我させてんだから嫌いだけど、瑠璃が仲良くなりたいって言うなら止めらんないし。なっ、怜央」
「うん。きっと正親さんに言われても止まらないのが武田さんだしね」
そんな、人を暴走女みたいに言わないでよ。
「まぁなんにせよ、もしダメだったら僕らのところにおいでよ。笹木さんだって心配してたし」
「笹木さんも?」
「『友達なのに全然相談してくれないー』って言ってたよ」
笹木さんにも謝っておかないと。保健室に連れてってくれたのも笹木さんだし、『お礼』のほうが正しいか。
「んじゃ、そろそろ行こうぜ。遅刻したら話になんないしな」
「うん」
二人ともそこまで怒ってなかったみたいで良かった。
登校中、二人に正親さんと話したことを話していると、『もしなんかあったら俺のところに来い。内海なんか叩きのめしてやる!』って穏やかじゃないことを言ってた。
そんなこんなで教室に入った私は、早速隣の席の内海くんに挨拶をしに行った。
いつもみたいにムスッとした顔で座ってる。
昨日のことを気にさせないように、笑顔で挨拶…っと。
「おはよっ」
「……」
内海くんは私の顔を驚いたような顔で見ていた。
ここでひるんじゃダメだ!
「おはよっ。内海くん」
「…は?」
「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・すっ!」
「え、あっ、おはよう…?」
「うん。おはよー」
やっと返してくれた!
私は嬉しくて、ニコニコしながら席に座って、1時間目の数学の教科書を開いて読みながら、朝の会をしに来る担任の先生を待った。
もう教科書の内容なんて全然頭に入ってないけど。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
更新遅れてごめんなさい。
力業の瑠璃ちゃんでした。
ヒロトくんも怜央くんも振り回されるのには慣れっこみたいです。
慣れていいのか?w
活動報告のヒントは『反転』です。
次回もお楽しみに!




