友達になろう
担任の先生が来て、朝の会が終わって、1時間目の授業までの短い休憩時間。
私は机の上に、国語の教科書とノートをカバンから出して置いた。
私の席は、前から3列目の廊下側から3列目。ちょうど教室の真ん中ぐらいにある。6月1日に席替えをしたせいで、真ん中になっちゃったけど、この席のほうが黒板が見やすくていい感じ。1週間経って、やっと慣れてきた。
同じクラスの怜央くんは窓側になっちゃって離れちゃった。目が合うと時々ニコッと笑ってくれるので、私も笑顔で返している。それに学校終わったらヒロトくんと笹木さんの4人で遊んでるから、席が離れててもそんなに気にしてない。
そして私の隣の席は、内海くんという男の子だ。
内海くんは、私が話しかけてもあんまり喋ってくれない。ヒロトくんは、『喋りたくないって奴もいるんだって。そっとしておいてやれよ』って言ってるけど、私も転校したての頃は、恥ずかしくてなかなか話しかけられなかったけど、怜央くんが話しかけてくれたおかげで、こうやってみんなと仲良くできている。怜央くんたちとはずっと仲良くしていきたいなぁ。
「おはよう」
「お、おはよ…」
私があいさつをしても、小さい声で返してくれるだけで、すぐに違う方を向いてしまう。
本当にヒロトくんが言うみたいに、話しかけてもらいたくないのかな。
毎日あいさつはしてるんだけど、全然変わらない。
もしかして私、嫌われてるのかなぁ?
「はぁ? 瑠璃が嫌われてる? そんなわけないじゃない。そいつが全然しゃべんないのが悪いんでしょ」
その話を昼休みに笹木さんにしたところ、ばっさりと『違う』と言われた。
「でも全然挨拶してくれないよ?」
「どうしてそれだけで嫌われてるって思ってるのよ」
「だって正親さんが『挨拶はコミュニケーションだから、それをしないってことは問題だ』って言ってたもん」
「言ってたかもしれないけど、それはそれでしょ。ってゆーか、その内海ってやつもけっこうな根暗ね」
「ねくら?」
「暗いのが染み付いちゃってるってこと」
「ふーん」
笹木さんが私のほっぺをプニプニしながら言う。
最近、笹木さんは私のほっぺをプニプニすることが多い。なんかクセになるんだって。
「こんなに可愛い瑠璃が話しかけてるのに、まともに返事もしないなんてもったいないっての」
「もったいないの?」
「もったいないでしょ。気づいてないみたいだから言っておくけど、あんた結構人気あるんだからねっ。うちのクラスでもちょくちょく話に出てるわよー」
「そうなんだー。笹木さんも可愛いじゃん」
そう言うと、笹木さんは顔を少し赤くして、プニプニをさらにプニプニし始めた。ちょっと痛いけど、笹木さんが楽しそうだから我慢しよう。
「そういうセリフは男の子に言っちゃダメよ」
「なんで?」
「かっこいいって言われたら、『こいつ俺のこと好きなんじゃね?』って思っちゃうんだって。男子ってバカだから」
「笹木さんってば、マンガ読みすぎだよ」
「そんなに読んでないもん!」
「もっとからだを動かしたほうがいいと思うけどなぁ」
「瑠璃は動かしすぎなのよ。遊ぶたびに『何する?』って聞いたら、鬼ごっことかケイドロってどうなのよ。もう中学生なんだから、部活でも入ってからだ動かしたらいいじゃないの」
「だって私運動音痴だから、運動はちょっと…」
「運動好きなのに、運動音痴ってなんかもったいないわよねー」
「それは私も思う」
二人で小さくため息をついた。
「まぁその内海くんだっけ? あんまり無理に仲良くなろうとしないほうがいいわよ。本当に話したくない人だっているわけだし」
「うん。わかった。覚えとく」
「…あんた、絶対覚えとくだけでしょ」
あっ。バレてた。
教室に戻った私は、自分の席に向かい、隣に座っている内海くんに話しかけた。
「内海くんって、昼休みはどこも行かないの?」
「…うん」
「友達は?」
「……」
内海くんは首を振った。
「じゃあ私と友達になろうよ」
「……」
私がそう言うと、内海くんは席を立って廊下へと出ていってしまった。
私、やっぱり嫌われてるのかなぁ?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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内海くん初登場です。
さてはてどうなることやら。
次回もお楽しみに!