日直の二人
「ほれー。席つけー」
俺が教室のドアを開けながらそう言うと、生徒達は慌てて自分の席に着いた。
うんうん。1年生はこの初々しさがいいよな。これが2年、3年と上がってくにつれて慌ただしさがなくなっていく。
全員が席に着いたところで、朝のホームルームをはじめる。
「はい。では日直ー」
「起立。礼。着席」
今日の日直は吉田と滝の二人だ。吉田は真面目を擬人化したような女子で、日直の時も真面目にやってくれている。俺の中では好評価な女子の一人だ。
滝はこーゆー風に人前に立って何かするのが苦手なのか、朝の挨拶も吉田がやっており、学級日誌を書いている。仲の良い友達も居るみたいだが、そこまでしゃべる方ではなく、おとなしく話を聞いているところしか見たことがない。
そんな二人が今日は日直だった。
5月も半ばに入り、ゴールデンウィークの休みボケも取れてきた生徒たちは、それなりにダルさを見せてはいたが、騒がしい生徒も見当たらなかったので、朝のホームルームはサクサクと終わった。
そして日直が1周したところで席替えをしたので、今、日直は2週目だ。全員流れは分かっているので、やりやすい。
「…というわけで、日直はちゃんと日誌書いておくんだぞー。そして放課後に俺のとこまで持ってきてくれな」
「わかりました」
「はい」
「んじゃおしまい。日直ー」
「起立。礼。着セコ」
そして何事も無く一日の授業の行程が終わり、日が沈み始め、放課後へと移行していく。
帰りのホームルームの段階ではまだ日誌を書き終わっておらず、うちのクラスでは掃除の報告も日直がすることになっているので、それが終わり次第の提出となる。
そろそろかな、と思っていると、職員室のドアが開いた。
「失礼します」
吉田が悠然と背筋を伸ばして入ってきた。後ろにはまるで部下のように滝がくっついて入ってきて、ペコリとおじぎをしていた。一目でどっちが主導権を握っているかわかる。
そんな二人が俺の元へとやってくる。
「遅くなりました」
「全然」
「滝君が3時間目の授業のことを書くのを忘れてて、それを書くのを待ってました」
「す、すみません」
「あるある。でもそういう言い方は良くないかな。吉田も協力してやってれば良かったはずだろ。滝だけが悪いわけじゃない」
「そうですけど、最初に役割分担しましたもん」
「それでもだ。日直をなんのために二人にしてると思ってるのさ。とりあえず日誌ありがとな。ケンカするなよ」
「…失礼しました」
吉田は踵を返すとスタスタと歩いていく。
滝は少しシュンとしたまま残っていた。
「あんまり気にするなよ。でも吉田の言ってることはもっともだから、次は書き忘れのないようにな」
「…はい。失礼します」
そう言うと滝も踵を返して職員室を出ていく。
んー。難しい二人だ。
「吉田さんと滝くんでしたっけ?」
後ろから笠井先生が声をかけてきた。
「ん? そうそう。全然タイプの違う二人だから、ちょっとズレちゃうんだろうね」
「まだ5月ですから、仲良くなるといいですね」
「それはどうだろうか?」
「無理ですかね?」
「よっぽどのことがない限りは無理じゃない?」
「でも仲良くはして欲しいですね」
「まだ若いなぁ」
俺が笑いながらそう言うと、笠井先生も小さく失笑。
「新任なんで、ちょっとは夢を見させてくださいよ」
「…俺も歳とったなぁ」
「まだ若いじゃないですか」
「考え方がさ。秋山先生のせいかも。…いないよね?」
「大丈夫です。僕が言っておきますから」
「言わなくていいって」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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高校生組の新キャラ登場です。
中学生組にも新キャラを登場させる予定です。
次回もお楽しみに!




