シーン11[母の心]
シーン⒒―1[母の心]
伊予、妙にハイテンションで帰宅。
伊予 はーい、伊予さんが帰ってきたよ~。「おかえりなさい」は?
上総 伊予さん・・・なんでここに?まだ、飲み会の最中じゃ?
伊予 そうよ、全く。せっかくもう少しで数学の山勝先生オとせそうだったのにさ~。
大和 げ。うちの担任かよ。
上総 かっこいいじゃん。
伊予 そうなのよ!あんなチャンス、めったにないんだから!
大和 じゃあなんで帰ってきたんだよ。
伊予 あら、それが甥っ子と姪っ子を心配してわざわざ帰ってきた、叔母に対する態度?
大和 ・・・ありがとうございます。それで、どうして帰ってこられたのですか?叔母さん。
伊予 一言多いわ‼
上総 でも、ホントになんで?
伊予 やよちゃんからね、携帯に電話があったのよ。二人がケンカしちゃったらしいって。
上総 弥生が?
伊予 そ。心配してたわよ、やよちゃん。あんたたちのこと。
上総 弥生・・・。
大和 あ、そういや、話って?
伊予 あぁ、そうだったわね。・・・あんたらの母さん・・・、姉貴はね、去年死んだ親父・・・あんたらのじいちゃんと、ちょっと・・・いろいろあったのよ。
上総 いろいろ?
伊予 そ。まぁ、あたしも当時はまだ、ガキンチョだったからさ、後から人に聞いた話なんだけど。
大和 聞いた話?
伊予 仕方ないでしょ?当時の事情知ってる人って・・・姉貴も、親父も・・・母さんも、死んじゃったんだからさ。
大和 あ・・・そか。
伊予 で、だ。うちの・・・如月家ってさ、結構昔は土地持ちでさ、まぁ・・・いわゆる、跡継ぎ問題とかもあったのよね。で、親父はかなり厳格だったからさ、「跡継ぎは男だ」なんて、古い考えばっか言ってたのよ。でも、姉貴はもちろん女。まぁ、いろいろと苦労してたわけよね。
上総 ・・・それで?
伊予 もちろん二人とも可愛かったんだけど・・・。上総。あんたには、自分と同じ思いはさせたくなかったんだと。まぁ、それがあんたに別の辛さを与えたんだろうけど・・・。姉貴は不器用だったからね。自分がしてもらったことしか知らなくて・・・でも、同じようにはしたくなくて・・・結局、接し方がわからない。
大和 ・・・・・・。
上総 でも・・・何か一言くらい・・・
伊予 姉貴は、あんたが頑張ってること知ってたよ。でも、だからこそ・・・「しっかりやれ」なんて、言えなかったんだよ。
上総 ・・・じゃあ、大和に厳しかったのは?
伊予 あ~、そりゃ・・・。やっぱ、男の子だったからかな?跡を継ぐ子は、厳しく育てたほうが、その子のためになるんだって。・・・なんにしろ、姉貴なりの愛情だったと思うよ。
大和 愛情・・・ね。・・・ったく、なんで死んじまったんだよ・・・。
伊予 ・・・姉貴も、無念だっただろうね。
シーン⒒―2
上総 でも・・・。何?それなら、じい様が古いこと言ってなければ、こういうことはなかったってこと?
伊予 あ~、まぁ、そうとも言えるけど・・・。
大和 誰かのせいにすればいいってわけじゃないだろ。
上総 でもさぁ。
伊予 まぁ、上総。勘弁してやってよ。・・・親父もあれで、後悔してたみたいなんだからさ。
上総 どういうこと?
伊予 あんたらを引き取ったの、当時まだ大学出たばっかりの、私だったでしょ?
上総 うん。
大和 あぁ・・・。正直驚いた。
伊予 あれ、親父からの頼みだったんだよね。
大和 え?!
上総 なんで?
伊予 なんでだと思う?
上総 ・・・・・・いけないと思いつつ、面倒ごとを避けたかったんじゃないか・・・なんて考えてしまったりする・・・。
大和 おいおい・・・。なんで?
伊予 親父も不器用だったんだよね、結局。・・・もう、あの頃には足腰弱くなってたし・・・。あんたら引き取っても、苦労させるだけだって思ったんだろうね。私に頭下げてきたんだよ?あの親父が。で、自分は老人ホームに入って・・・。
上総 そうだったんだ・・・
大和 ・・・もしかしてさ、じい様って、お金の援助もしてくれてた?
上総 え。なんで?
大和 去年、高校生になったし、バイトしようか?て、伊予さんに聞いたことがあるんだけど、心配ないって言われて・・・
伊予 大和の言う通り。考えても見なさいよ。社会人若葉マークの私が、高校生二人も養えると思う?まぁ、最近でこそ、仕事は入るようになってきたけどさ。
上総 ・・・そりゃそうか。
大和 ・・・なんだかんだで、俺らもガキだったんだよな。
伊予 いいんじゃない?ホントにガキなんだから。ワガママは言えるうちに言っときな。
大和 ・・・そうする。
上総 ・・・うん。・・・でも、伊予さんがそれ言ってもなぁ・・・
伊予 なんですって。
上総 冗談。・・・・・・ありがとう。
照明溶暗
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