シーン10[和解]
シーン⒑―1 [和解]
如月家
舞台半分に大和。もう半分に飛鳥がいる。
サスがそれぞれに当たり、大和は家で、飛鳥は別のどこかで電話で話している。
大和 ・・・あぁ、そうする。
飛鳥 ・・・気分、落ち着いたみたいやな。
大和 あぁ。・・・長話に付き合わせて、悪かったな。
飛鳥 アホ。前に約束したやろ。
大和 え?
飛鳥 大和が話したくなったら、いつでも相談乗るって。
大和 あ・・・そうだったな。
飛鳥 ・・・・・・ったく、アホやな。
大和 アホって・・・。そんな言い方ねぇだろ。
飛鳥 お前やない。オレんことや。
大和 え・・・なんで。
飛鳥 ・・・ホンマ、アホやわ。オレは・・・、うちは、そないなあんたのことが、こんなに心配なんやから。
大和 え・・・飛鳥・・・?
飛鳥 じゃ、大和。もう大丈夫やな?
大和 あぁ。
飛鳥 そんなら、オレはこれで・・・
大和 飛鳥。
飛鳥 なんや?
大和 ・・・ありがとうな。
飛鳥 ・・・・・・なにゆぅといやす。ほな、また明日な。
電話が切れる音
サス溶暗
飛鳥退場
シーン⒑―2
大和は一人、上総の帰りを待っている。
如月家の照明溶明
上総が帰宅する
上総 ・・・・・・ただいま。
大和 上総・・・・・・ったく。何やってんだよ、バカ姉貴が。
上総 何よ、その『バカ姉貴』って!
大和 じゃあ、「バ上総」なら満足か?
上総 何それ!もっと悪いわよ!・・・全く。
大和 ・・・・・・
上総 ・・・・・・
大和 ・・・・・・上総。
上総 何よ。
大和 ・・・心配してたんだからな、これでも。
上総 ・・・わかってる。・・・家出てったりして、ごめん。
大和 いや、いいよ。・・・・・・俺も悪かったんだよな。いつも言葉足らずで。つらい思いしてんのは自分だけじゃないのに。
上総 あたしだって。勝手に溜め込んでたのに、勝手にキレて・・・
大和 あ~、それでだなぁ。まず・・・ここのところの誤解は解いておきたいんだけど、テスト前、遊んでたわけじゃないから。
上総 勉強会だっけ?
大和 知ってたのか?
上総 弥生にちょっと・・・
大和 美作に?
上総 うん・・・。ねぇ、どういうこと?勉強会て。
大和 ・・・・・・俺さ、 テスト前、必ずと言っていいほど、家で勉強してなかっただろ?
上総 うん。
大和 アレは・・・まぁ、友達の家に行ってたわけだけど・・・
上総 遊んでたんじゃなかったんだ?
大和 あぁ。・・・勉強会してたんだ。クラスメイト何人か誘って、誰かの家で。
上総 今時?遊ぶための言い訳じゃなく?
大和 あぁ。・・・信じられねぇかもしれないけど。真面目に。
上総 そうなんだ・・・。弥生とも?
大和 あー、あいつは・・・受験時に、一回英語聞きにいっただけだけど・・・気付いてたかもな。
上総 ・・・今回も、飛鳥君とこに勉強しに行ってたの?
大和 あぁ。
上総 ・・・・・・でも、だからってなんであんな一気に成績上がったのさ。
大和 あー、それは、俺も驚きだったんだけど・・・。飛鳥のやつ、すんげー頭いいの。
上総 え?
大和 あの成績表見たんだろ?編入試験パスしてきたって言うから、ある程度は覚悟してたけど・・・。今回のテスト総合一位、あいつだったらしいぜ?
上総 ・・・まじ?
大和 まじ。思わず本人に確認しちまった。
上総 ・・・飛鳥君、すごいんだぁ・・・
シーン⒑―3
大和 で、話し戻すけど。
上総 ねぇ!・・・なんで、うちで勉強しなかったの?
大和 あ・・・ほら・・・家じゃ、いろいろうるさかっただろ?母さんが。今もその癖が抜けてないだけ。
上総 ・・・それって、母さんたちが死んだとき、一人で泣いてたのと関係ある?
大和 え!・・・・・・なんで知ってんだよ。見てたのか?
上総 ・・・弥生に聞いた。
大和 ・・・なんでも知ってんだな、あいつ。
上総 そだね。
大和 ・・・母さんが死んだとき、外で一人で泣いてたことあったんだ。たぶんそのとき見られたんだと思うけど・・・。事故のこと聞いた時も、病院で冷たくなった母さんを見たときも、葬式の間も・・・。お前や、伊予さんは泣いてたけど、俺、必死で涙こらえてて・・・。
上総 うん・・・
大和 まぁ、忙しすぎて、泣いてる余裕もなかったてのが正しいのかも知れねぇけど。
上総 ・・・・・・
大和 ・・・それで・・・さ。そういうごちゃごちゃしたの、全部終わった後で・・・葬式に来てくれてた人とか、みんな帰って静かになったときに・・・。急に・・・目頭熱くなってきて・・・。父さんが死んじゃってから、ずっと一人で俺たちを育ててきてくれた母さんが・・・もういないんだって・・・。そう思うと、悲しくて・・・寂しくて・・・、悔しくて。
上総 悔しい?
大和 母さんが、あんなに早くいなくなるとは思ってなかったから・・・。
上総 そうだね・・・。
大和 ・・・・・・上総が・・・さ。さっき、言っただろ?自分も、俺みたいに褒められたり怒られたりしたかったって。
上総 うん。
大和 ・・・俺も、さ。コンプレックスってやつ?あったんだぞ、お前に。
上総 え?なんで?
大和 勉強で負けて悔しいのはお前だけだと思ったのか?俺なんか、昔から負けっぱなしだったんだたんぞ?
上総 あ・・・そういえば・・・
大和 俺だって、さっき言ったように遊んでばっかいたわけじゃねぇんだ。なのに、お前にはいつも勝てないだろ?グレるぞ?普通。
上総 あ・・・あは?
大和 で、怒られたりほめられたり・・・そりゃ、褒められりゃあうれしかったさ。けど・・・あんまり親の期待が大きすぎても、重荷なんだよな。
上総 ・・・そうだね、それは少しわかるかも。
大和 ・・・上総も、なんかあったっけ?
上総 期待なのかは微妙なとこだけど・・・。高校受験のとき、じい様とか伊予さんが「上総なら心配ないな」って・・・。なんか、褒められてんだか、無関心なのか微妙なとこなんだけどね。
大和 へぇ、そんなことが・・・
上総 うん・・・。
シーン⒑―4
大和 上総も、大変だったんだよな。・・・悪かったな、ホントに。俺、何も言ってなくて。・・・俺、思ったんだ・・・。俺達、互いに気を遣いすぎてたんじゃないかって。それで、いろいろ溜め込んじゃって・・・。お互いに、いつそれが溢れてもおかしくなかったんだ。今回は、たまたま上総がきっかけだっただけで。
上総 ・・・・・・大和・・・(呼びかけ)
大和 ん?・・・・・どうした。
上総 ・・・大和、ごめん。
大和 なにが?さっきのことだったらもう・・・
上総 そのことじゃないの。
大和 じゃあなんだよ?
上総 ・・・あたし、ホントは知ってたの。
大和 なにを。
上総 ・・・・・・大和も、辛かったんだってこと。
大和 ・・・まぁ、別にそれくらい・・・
上総 友達の家で何してるかは、ホントに知らなかったけど・・・。大和がテストのたびに悔しそうな顔してたことも、気付いてたの。けど、気付いてた上で、「いい気味」なんて思っちゃう自分がいて・・・。こんな汚い自分がイヤなんだけど、消すことなんてできなくて・・・。
大和 ・・・・・・
上総 母さんが死んじゃったときも、自分が悲しいのと悔しいので精一杯で・・・。大和も辛かったのに、一人で泣いて、喚き散らして・・・。大和が、みんなの前で泣くの我慢して・・・特にあたしの前じゃ、絶対に涙なんか見せないで、気丈に振舞ってたのに。ホントは悲しくて、一人で時々泣いてたのも知ってたのに・・・
大和 え・・・
上総 なんか、いろいろ理由つけて、自分ばっかり正当化しちゃってたんだよね。
大和 ・・・・・・。
上総 ・・・ホントに、なんで母さんは死んじゃったのよ。あの時、悲しくて・・・悔しくて・・・。母さんに、いつか認めてもらうんだって、一生懸命だったのに、その前に死んじゃってさ・・・。
大和 俺だって・・・。なんで、母さんは・・・俺たちへの態度があんなに違ったんだろ。
上総 ホントだよね。でなきゃ、こんな思いすることもなかったのに・・・
大和 ・・・・・・
伊予 その話には、私が答えましょ。
上総・大和 え?
.
※溶明⇒だんだん明るくなる≒照明F.I