1話 白
「さぶっ……」
マフラーと厚手のコートと手袋、さらにヒートテックまで着ているというのにこんなにも寒いものなのか。
マフラーを口元まであげて、風を受けないように、なるべく俯いて歩く。
ふと立ち止まり、流行のアーティストの新曲が流れていたイヤホンを外し
相良 圭はここでまた一つ息を冷たい空に向けて吐き出し
静かに柔らかい笑みを浮かべた
静まり返った 冬の透き通る空に白い吐息が広がり 吸い込まれていった
圭は冬という季節が好きだった
白い吐息は自分の意思で出ては しばらくすると消えていく
それが圭にここにいることの実感を与えてくれる
11時も5分を回った、ガス灯の明かりだけがぼんやりと浮かぶシャッターがしまった商店街の無機質なのアスファルト道を一人歩いていた
「♪~」
「ん?」
微かに何かが聞こえてきた
その声は商店街を進めば進むほど大きくなっていった
足を止め、耳を澄ませてみる
「♪~♪~」
こんな時間にここにいるのは大概酔っ払いか残業でおぼろげな足で歩くリーマンくらいなであった
だが聞こえてきたのは女性の
「歌?」
(近くで確認したい)
圭はふらふらと、まるでその声に導かれるように歩き出した
(何故?)
(分からない)
ただ身体がその歌を求めた
(聞いたことは無い曲だ でも懐かしい?)
不思議な感覚に心をゆだね歌の出所へ向かい続けた
商店街のわき道を縫うように進んでいくとだんだんと声が大きくなっていく
(この辺だな・・・いた!!)
「♪~」
3本目の路地を曲がった所にあるラーメン屋の店の脇に出された
青水色のダストボックスの上に彼女はこしかけていた
薄暗いと月明かりに照らされた彼女は歳はよく見えないが
小柄な身長から察するに高くても14,5くらいに見えた
白いニット帽に白いコートが清楚さを際出せていた
瞳を閉じ幻想的に歌う彼女を見ていた
どこかはかなげで 今にも壊れそうな旋律
(何でだろう)
懐かしい気持ちがこみ上げ 涙が出そうになっていた
もっと近くで聞いていたい その世界を近くで感じたい
そんな願望が身体を動かし彼女との距離が
4m 3m段々と近づいていく
その距離があと2mになろうかというところで
突然歌声が止まった
閉じていた目は開かれ こちらを見ていた
(ヤバイきまずい・・・)
「ええと、今歌っての君だよね? なんて曲なの?」
あどけなさの残るきょとんとした顔が
崩れ、紅潮していった
「ええええええええええええ な、、な、な、なななななな」
「い、いきなりごめん とりあえず落ち着いて」
その言葉は虚しく
慌てた彼女の体はバランスを崩しバケツごと鈍い音を立てひっくり返った
「だ、大丈夫!?」
「い~た~い~~~~」
涙目になりながら頭をおさえる
「立てる?」
伸ばした手は握られず
少々ゴミ臭くなった清楚な少女は走り去っていった。
(なんだったんだろうか でもそれを考えるより)
「このゴミを片付けるほうが先か」
最後までお読み頂きありがとうございます。
ひとまず話の進行とかどういった順番でやるべきかわからず衝動のまま
やってしまって内心不安です(汗
もし よろしければ感想お待ちしております。