偽りの傍観者
「あ~らら。完全にワタシのことを忘れていますねぇ、彼」
チャールズは遠くから戦いを観戦していた。
「お前は戦わなくていいのか?」ゼロが尋ねる。
「ワタシが? 何のために」
「オレたちはお前の敵だろ!?」
ニックは焦れたように言った。するとチャールズは戦っている彼らに視線を向けたまま答える。
「不思議ですねぇ。ワタシには理解不能です。敵だから戦わないといけないなんて理由、アナタたちにはあるんですか?」
「それは……!」
ニックは口ごもった。確かにチャールズの言う通りだった。敵だから戦わなければならないなんてことはない。
「どうします?」
チャールズは唐突に言った。
「ワタシがアナタたちの相手をしてあげてもいいですよ。どうせ暇ですし」
「断る。暇だから戦うということほどつまらない理由は無いからな」
ゼロはチャールズに冷ややかな目を向けた。チャールズはわざとらしく肩を竦める。
「殺したいくらい頭がいいですね、アナタは」
「はん、頭の良さなんて関係ないさ。みっともなく生にしがみついているだけだよ、俺は」
失ってしまった過去。
失ってしまった感情。
何も持たない俺が手に入れたのは不確かな『事実』。
何も知らないまま無意味に生きてきて思い知ったのは、この世にはどーしようもないバカがいるということだ(苦笑)。
記憶を失っていた俺を、知り合いでもないのに心配する世話好きな奴がいる。人が中傷されているのを見て、まるで自分のことのように激怒する奴がいる。全てを忘れて責任を放棄した馬鹿を許してしまう奴がいる。
世界は、俺が思っていたほど甘くはなかったようだ。
「チャールズ」
「はい?」
チャールズは振り返った。
「わざわざ意味のない戦いをする必要なんてない、確かにそうだ。それが一番賢く生きていける道だ。……けどな、俺はもう傍観者を気取るのは止めるよ」
「おやおや、急にどうしたんです? アナタらしくないことを言いますね」
「フン。仲間のために戦うことの何が悪い?」
「……アナタは本当に厄介です。あー、ヤダヤダ! だから賢い人とは戦いたくないんですよ」
チャールズはにやりと不気味な笑みを浮かべた―――。