再始動2
「まさかお前……!」
その時、木の上から人影がこちらへ向かって降りてきた。ゼロたちは心底驚いて呼吸をするのも忘れている。その人影は、自信に満ち溢れた口調で言った。
「フローラを倒すには、『これ』が必要なんだよ」
銀色の鉄の塊を手にしながら、『彼』は不敵に笑う。そう、今目の前にいるのは―――。
「クリス!!」
「戻ってきてくれたのね!!」
レイチェルは嬉しさの余りクリスに抱きついた。クリスは一瞬だけゼロを見やり、困ったように笑いながら「ま、まあね……」とレイチェルを引きはがす。
「どうしたんだ?」ゼロは訝しげに尋ねた。
「え? あ、いや別に何でもないよ」
ニックがわざわざそれを持ち上げる。
「誰かさんが嫉妬しないように気を回したんだよな~?」
「はぁ?」
何言っているんだお前、と言わんばかりである。
「やれやれ、自覚してないよこの人」
「意味不明だが、まあいい。それより、どんな心境の変化だ?」
―――何かが吹っ切れたような表情をしてやがる。
「あー……。ま、色々ね。あったということでして」気まずそうにクリスは言葉を切った。
「……みんなに顔向けできないことは分かってる。この戦いが終わったら、僕は―――」
「また逃げるの?」
レイチェルはクリスの視線をしっかりと捉えた。言い返すための適切な言葉が見つからず、視線を外したクリスに彼女は何の迷いもなく言った。
「逃げるなんて卑怯だよ。私たちはどんなことがあってもあなたの仲間なのに」
仲間。その言葉を信じても良いのだろうか。
「信じろよ。あんたは人を信用しなさすぎだぜ?」
僕は見誤っていたのかもしれない。彼らの強さを―――。
「それで、お前と双子を誑かした女帝サマの弱点とやらは何だ? クリス」
ゼロに促され、クリスははっとする。「そうだった。これだよ、これ」
「それは……? 初めて見るわね」
鉄の塊が何の役に立つというのだろう。するとクリスは、ただの鉄の塊ではないと言った。
「これは、『銃』というんだ」
「銃?」
「ああ。中には火薬の詰まった弾丸が入っていて、この引き金を引くと発砲する。これを女帝の心臓にブチ込むんだ」
「どうして銃を使わなければ彼女を倒せないのかしら?」
「分からない。ただ―――」
クリスは少し戸惑った後、言葉を続けた。「マルスが教えてくれたんだ」
「マルスだと?」
案の定、ゼロが訝しげに訊き返してくる。
「銃をくれたのもマルスだよ。初めて見た時に使ってみたんだけど……これ、凄いね。どんなに遠く離れていても攻撃できる。―――とりあえず、兄さん。今のは聞かなかったことにしてくれ。早くしないと玲と鈴が危ない」
「……分かった」
ゼロは渋々頷いた。
「後で奴の居場所を教えろよ」
「はいはい、分かっています」
どちらが兄でどちらが弟なのか分からないな、と傍目で見ているニックとレイチェルは苦笑していた―――。