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外の世界  作者:
外の世界
64/75

メグリヤ・メグミ

引き続き、クリス(子供ver.)視点です。

 次の日。


 噂通り、お姫さまはやって来た。息子と奴隷の女の子を連れて―――。


 「これまた随分と儲けておるようじゃのう」


 「え、ええ、そりゃもう……!」


 お姫さまを目の前にしてか、いつもは高圧的な商人が縮こまっている。


 「まったく、早くわれに皇帝の座をゆずってほしいものじゃ。我が国を担う前にこやつが皇帝になりそうじゃな」


 お姫さまは愉快そうに息子を見た。


 「姫様、その奴隷はどうしたんで?」


 「息子の遊び相手じゃ。立場上、息子は中々外に出られぬものでの。我も忙しくて息子を構ってやることが出来ぬゆえ、奴隷商から買ってやったのじゃ。息子―――チャールズはこの奴隷を気に入ったみたいでな」


 「それはそれは、お元気になって良かったですね」


 するとその時、チャールズがお姫さまの服の袖を引っ張って言った。


 「母上、どうしてこの人たちは檻の中に閉じ込められているのですか?」


 「それはのぅ……」


 お姫さまはそれ以降、延々と語る。ていおうがく? というヤツをだ。チャールズっていう奴もそれを真剣に聞いていた。


 その時、お姫さまが連れてきた女の子と目が合った。


 「………こんにちは」


 女の子はブラウニーさんのように声を出さないように、口だけを動かした。彼女は浮かない表情をしていた。僕には彼女の気持ちが分かるような気がした。彼女は自分の境遇を悲観しているわけではなく、諦めているのだ。


 「ボク、クリスチアナって言うんだ。……君は?」


 「わたしは……巡矢」


 「メグリヤ?」


 メグリヤは頷く。「巡矢メグリヤメグミよ」


 「キミは、彼らと一緒にいたくないの?」


 その時、チャールズがメグリヤを呼んだ。


 「もう行かなきゃ」


 メグリヤは悲しそうに微笑んで言った。


 「クリス」


 彼女は去り際に言ったんだ。


 「わたしを助けて」








 助けるって、どうやってあの子を助ければいいんだろう。どうにかしてここから出なくちゃいけない。

 彼女の悲しげな笑顔が、その横顔が恐ろしく綺麗に見えた。垣間見えた暗い感情に、僕は魅せられたらしい。


 ここからどう出ればいいんだ。誰かが出入りする隙に抜け出してしまおうか。だが、それではすぐに捕まえられてしまう。どうすれば……。


 その夜、ボクは必死に考えた。耳障りな連中の話声は聞こえなかった。


 どうして来てくれないの、兄ちゃん。


 兄ちゃんが来てくれれば、ボクはここから出ることができるのに。


 どうして――――――。


 「おい、知ってるか? オレたちでも光の楽園の兵士になれるらしいぜ」


 唐突に耳に入ってきた言葉。


 「なれるっつっても、どうやって募集しているところまで行くんだよ? それに、どうせ無属性能力者ノーマルは雇ってくれないんだ。オレたちじゃ無理だ」


 光の楽園の兵士を募集している……? そうか、その手があった。

 

 彼らはきっと知らなかった、無属性能力者ノーマルでも能力を目覚めさせることができることを。

能力を持たない無属性能力者ボクらでも、神の御加護を受けることはできる。


 ボクはその日から神に祈りを捧げた。純粋な信仰でないことは分かっている。それでも、何もしないよりはマシだと思った。それよりも―――。


 どうして来てくれないんだ、兄ちゃん。


 信じていたのに。








 僕は魔法エネルギーを集束させることができるようになった。


 夜。見張りが油断している隙にこの牢獄から脱出した。「何だ、今の音?!」


 牢をぶち破る際に生じた爆発音が虚空に鳴り響く。手当たり次第に他の牢も壊して行った。奴隷たちがその騒ぎに便乗して一目散に逃げていく。僕もそれらに混じって逃げた。


 「ありがとよ、坊主」


 そのうちの一人がそう僕に声をかけたような気がした。……悪い奴らばかりではなかったのかもしれないなと認識を改めた。


 




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