メグリヤ・メグミ
引き続き、クリス(子供ver.)視点です。
次の日。
噂通り、お姫さまはやって来た。息子と奴隷の女の子を連れて―――。
「これまた随分と儲けておるようじゃのう」
「え、ええ、そりゃもう……!」
お姫さまを目の前にしてか、いつもは高圧的な商人が縮こまっている。
「まったく、早く我に皇帝の座をゆずってほしいものじゃ。我が国を担う前にこやつが皇帝になりそうじゃな」
お姫さまは愉快そうに息子を見た。
「姫様、その奴隷はどうしたんで?」
「息子の遊び相手じゃ。立場上、息子は中々外に出られぬものでの。我も忙しくて息子を構ってやることが出来ぬゆえ、奴隷商から買ってやったのじゃ。息子―――チャールズはこの奴隷を気に入ったみたいでな」
「それはそれは、お元気になって良かったですね」
するとその時、チャールズがお姫さまの服の袖を引っ張って言った。
「母上、どうしてこの人たちは檻の中に閉じ込められているのですか?」
「それはのぅ……」
お姫さまはそれ以降、延々と語る。ていおうがく? というヤツをだ。チャールズっていう奴もそれを真剣に聞いていた。
その時、お姫さまが連れてきた女の子と目が合った。
「………こんにちは」
女の子はブラウニーさんのように声を出さないように、口だけを動かした。彼女は浮かない表情をしていた。僕には彼女の気持ちが分かるような気がした。彼女は自分の境遇を悲観しているわけではなく、諦めているのだ。
「ボク、クリスチアナって言うんだ。……君は?」
「わたしは……巡矢」
「メグリヤ?」
メグリヤは頷く。「巡矢恵よ」
「キミは、彼らと一緒にいたくないの?」
その時、チャールズがメグリヤを呼んだ。
「もう行かなきゃ」
メグリヤは悲しそうに微笑んで言った。
「クリス」
彼女は去り際に言ったんだ。
「わたしを助けて」
助けるって、どうやってあの子を助ければいいんだろう。どうにかしてここから出なくちゃいけない。
彼女の悲しげな笑顔が、その横顔が恐ろしく綺麗に見えた。垣間見えた暗い感情に、僕は魅せられたらしい。
ここからどう出ればいいんだ。誰かが出入りする隙に抜け出してしまおうか。だが、それではすぐに捕まえられてしまう。どうすれば……。
その夜、ボクは必死に考えた。耳障りな連中の話声は聞こえなかった。
どうして来てくれないの、兄ちゃん。
兄ちゃんが来てくれれば、ボクはここから出ることができるのに。
どうして――――――。
「おい、知ってるか? オレたちでも光の楽園の兵士になれるらしいぜ」
唐突に耳に入ってきた言葉。
「なれるっつっても、どうやって募集しているところまで行くんだよ? それに、どうせ無属性能力者は雇ってくれないんだ。オレたちじゃ無理だ」
光の楽園の兵士を募集している……? そうか、その手があった。
彼らはきっと知らなかった、無属性能力者でも能力を目覚めさせることができることを。
能力を持たない無属性能力者でも、神の御加護を受けることはできる。
ボクはその日から神に祈りを捧げた。純粋な信仰でないことは分かっている。それでも、何もしないよりはマシだと思った。それよりも―――。
どうして来てくれないんだ、兄ちゃん。
信じていたのに。
僕は魔法エネルギーを集束させることができるようになった。
夜。見張りが油断している隙にこの牢獄から脱出した。「何だ、今の音?!」
牢をぶち破る際に生じた爆発音が虚空に鳴り響く。手当たり次第に他の牢も壊して行った。奴隷たちがその騒ぎに便乗して一目散に逃げていく。僕もそれらに混じって逃げた。
「ありがとよ、坊主」
そのうちの一人がそう僕に声をかけたような気がした。……悪い奴らばかりではなかったのかもしれないなと認識を改めた。