砕けたもの
シュンエイがいたことを思い出しました。すっかり忘れ―――いえ、何でもありません(^_^;)
「玲……」
フローラが去ってから二時間は経過している。鈴は糸の切れた人形のように、ただ呆然としていた。傍らには、どうでもいいと言いたげに剣が投げ捨ててある。
ゼロがアリスとフリードリヒに「もう大丈夫だ」と声をかけ、任務終了を告げた。影のように存在感が薄かったシュンエイはそれを遠くから眺めている。
残ったのは、喪失感だけだった。何の報いもない。
夢であればいい。これがただの白昼夢なら、夢見が悪かったと言って笑い飛ばすことができる。けれどこれは夢ではなかった。全て現実にあったこと。
メグリヤが死んだ。
その事実は僕に耐えられるものではなかった。『死んだ』? いや違う、そうじゃない。
メグリヤは殺された。僕がこの手で殺したからだ。
その事実が耐えられるものでなくても、僕は耐えなければならない。彼女が命を落としたのは紛れもなく僕の責任だ。
ここにいる資格なんて無い。彼らと一緒にいることは、もう二度と許されない。僕は悪役を貫き通さなければならない。それが僕に相応しい最期だ。
もう逃げることはできない。まだ終われない―――。
「クリス」
レイチェルが僕を呼んだ。合わせる顔なんて無かった。だから彼女がどんな表情をしているのかまったく分からなかった。
「僕はもう行くよ」彼女の言葉を遮るように僕は言った。
「光の楽園でまた会おう。君たちにフローラ様を止めることはできないと思うけどね」
そう言うと、彼は窓から飛び降りた。
「クリス!!」
私は追いかけて下を見やる。だが、すでに彼の姿はなかった。
どうして? なんて訊けなかった。訊いても答えてくれないような気がしたからだ。
「これからどうするんだ?」シュンエイが尋ねた。
「鈴を正気に戻してから、アリスたちを安全なところまで送る。首謀者が狙わないと言ったんだ、もう大丈夫だろう」
ゼロはいつもと変わらない調子だった。シュンエイは呆れたように言う。「アンタは仲間に裏切られても何とも思わないんだな」
「何も思わないわけではないさ」
「じゃあ、どうしてそんなに冷静なんだ?」
「裏切られることに慣れているからな」
何の感情も込められていない。彼にとって、裏切られるということは重要でも何でもないのだ。もっと言うなら。彼はそれをただの『事実』に過ぎないと思っていた。
「どのみち、俺たちは玲を助けに行かなければならない。あと、クリスもな」
「クリス? あいつは裏切り者だろ!?」
鈴はゼロを睨んだ。暗い表情に、瞳だけが輝いていた。
「俺が――――」
鈴は急に口をつぐんだ。そして次の瞬間、にやりと笑ったのだ。私は思わず身震いをした。彼は、私の知っている鈴ではないような気がした――――。
「僕があいつを殺す。あいつを殺してやるよ」