残酷な女神様
誰かが呼んでいる……。誰だ?
「起きるのじゃ、クリス」
「うっ……!」
思い出したように酷い頭痛が襲ってくる。頭が割れそうだ……。くそっ、意識がはっきりしない……。僕を呼んでいるのが誰なのか分からない。
その人物は声のトーンを少し変えて言った。
「そういえば、お主にかけた呪いをまだ解いていなかったのう」
「呪い……? この頭痛は、呪いのせいなのか?」
「お主が裏切る可能性もあったから、ちょっと試してみようかと思っての。頭痛程度で済むとは、どうやらお主は信用おける男だったらしいな。その忠誠心はあっぱれじゃ。褒美にわし自らがお主の呪いを解いてやろう。わしは呪いをかけることはあっても呪いを解いてやることは滅多にない。存分に感謝するがよい」
彼女―――声から判断するに―――は何やら呪文を唱えた。徐々に身体が軽くなり、視界がクリアになっていく。僕に呪いをかけたその女の名は。
「フローラ……様」
「いかにも、わしはフローラじゃ」
フローラは何の感情も込めずに言った。先を促しているようにも見える。
「申し訳ございません、フローラ様。先程の無礼な態度をお許しください」
「そなたは呪いを受けた身。仕方のないことじゃ、特別に許してやろう。それより、お主にやってもらいたいことがある」
「くっ……!」
メグリヤは左足を庇いながらチャールズの攻撃を避けた。不等間隔で血が点々と床に付着する。彼女は怪我をした部位に手を当てた。淡い光が手の平から溢れ出し、みるみる傷口は塞がっていく。
「怪我を負っては治療する。それでワタシに勝とうだなんて、少々無理なんじゃないですかねぇ?」
チャールズはそう言いながら、少しずつ間合いを詰めていく。彼は余裕の笑みさえ浮かべていた。
「アナタが今生きているのは、ワタシが手加減をしてやっているからなんです。アナタを助けたいと言ったお友達を拒絶した時点で、アナタはワタシに負けているんですよ……」
「首謀者は誰だ。答えろ」
ゼロは追いつめたウェンクドリアンに問い質した。ウェンクドリアンはごくりと息を飲み、ニィっと笑う。
「知っていたとしてもお前らには教えねーよ! アリスとやらがどうなろうと、俺の知ったことか!!」
「そうか」
ゼロはそう言い、ウェンクドリアンに止めを刺した。ウェンクドリアンの絶叫がフロアに響く。そこはまさに地獄絵図だった。戦力にならないアリス、フリードリヒ、カイを除く四人が―――たったの四人が―――『LEC』本社ビルにいるウェンクドリアンたちを壊滅させようとしているのだ。
鈴は光の縄で数匹のウェンクドリアンを捕える。その光はただの光ではなく、電流を帯びていた。人間なら気絶しない程度のレベルだが、ウェンクドリアンなら確実に死に至る。
「もう少し手加減しなさいよ、鈴。彼らから話が聞けなくなるじゃない」
玲はそう言いつつも、津波を発生させウェンクドリアンたちを波に飲み込ませている。
「それなら私に任せて!」
レイチェルは津波から逃れたウェンクドリアンに向かって振り上げた脚を寸止めした。それからグッと拳に力を込める。
「死ぬか、私たちに首謀者の居場所を教えるか。選択の余地を与えてあげる」
「ヒ、ヒィッ!!」
ウェンクドリアンは後ずさろうとした。だが、鈴に邪魔されてしまう。「逃げると俺が殺しちゃうよ?」
「わ、分かった!! 教える! 教えるから勘弁してくれ!!」
ウェンクドリアンは両手を上げ、降参の意を示した―――。