『LEC』本社ビル 14F
「何? ここ……」
十四階には何も無いし誰もいなかった。
玲は窓に近付く。自分よりも大きな窓がいくつもあった。壁よりも窓の方が多いかもしれない。傍に立つと、自分がどこにいるのか分からなくなってしまいそうだった。
「危ないっ!!」
ゼロの声が聞こえた。玲は彼の方を振り返った。だがそこにゼロはいなかった。気付くと、玲はゼロに庇われていた。
「あ~らら、外しちゃいましたか」
にたりと不気味に笑う男。彼は先程まで玲がいた場所を、鋭い爪で抉っていた。
「お前……誰だ?」
「おや、ワタシのこと知らないんですか? 光の楽園の皇太子、チャールズですよ~ん」
するとその時、メグリヤはゼロの前に歩み出た。「みんなは先に行ってて」
「駄目だ! あんたが勝てる相手じゃない!!」
ゼロには分かっていた、彼が今までの敵と違うことに。だが、メグリヤは振り返りもせず言い放った。
「あなたに避けられない戦いというものがあるのなら。これは、私にとって避けられない戦いよ」
「どうするの、ゼロさん!?」
玲が困ったようにゼロを仰ぎ見る。ゼロは瞼を伏せ、考えた。避けられない戦い、それがどういう意味を持つのかを。もし俺がそんな場面に遭遇したとしたら――――。
「……行こう」
「ゼロ?!」
レイチェルは訴えるかのように彼の名を呼んだ。自分の知らない間に仲間がどうなっているのかが分からない、それが怖いのだと。だが、彼はそれを無視した。
「メグリヤ。絶対に負けるなよ」
「ええ、もちろん」
そうしてメグリヤは、ゼロたちと別行動を取ることになった―――。
「チャールズ……!!」
メグリヤはキッと彼を睨む。彼女がここまで敵意を見せたのは初めてかもしれない。
呼ばれたチャールズは彼女の方を見た。
「お久しぶり~、メグちゃん。アナタをいつも守ってくれる番犬は、どうやら今日はいないようですねぇ」
クリスのことを言っているのだとメグリヤはすぐに分かった。
「それがどうしたと言うの……?!」
「彼、今どこにいると思います?」
「私の知ったことじゃないわ!!」
メグリヤは懐から数十本の毒針を取り出し、チャールズ目掛けて投げた。チャールズはマントを翻し、全ての毒針を受け止める。
「そう怖い顔をしないで楽しみましょうよ、この喜劇を……ね」