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外の世界  作者:
外の世界
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過去の国4


 「レイチェルを城の外に出しただと?」


 王室にデスぺラード王の声が響き渡る。レイチェルがいなくなったということで、緊急会議が開かれているのだ。


 「申し訳ございません」


 マニュアル通りに謝るゼロ。彼の口調からは、何の感情も読み取ることが出来なかった。それがよりいっそうデスぺラード王の苛立ちを増幅させる。


 「これから戦争だというのに、お主は何をやっておるのじゃ! レイチェルが敵の人質にならぬようお主を守り役につけたというのに、これでは意味が無いではないか!」


 「……お言葉ですが、陛下。私は姫を捕えようとしました。ですが、彼女は突然消えてしまったのです」


 「何を非科学的なことを言っておるのだ、人が消えるはずがなかろう。まったく……お主がマルスの弟だとは到底思えん。あやつなら、レイチェルを外になど出さなかったであろうよ」


 「申し訳ございません」


 「お主を中佐から解雇し、レイチェルを探す任務を命じる」








 俺は王室から出る。するとそこにはライトがいた。


 「聞いたぞ。解任されたんだってな」


 「まあな」


 「まったく、姫様が姫様なら陛下も陛下だ。……知っているか? 陛下は姫様を捕えて殺すつもりだ」


 ライトは淡々と言った。そこには何の感情も込められていなかった。彼女はじっと視線を俺に合わせる。お前はそのことについてどう思うのかと、問われているような気がした。


 任務は、任務だ。公私混同をしない。たとえ何があろうと任務は遂行しなければならない。


 だが、本当にそれでいいのか? いくら陛下の命令とはいえ、何の罪もない命を、敵に情報が漏洩するからという理由で滅しても良いものなのだろうか。


 戦争は何も生み出さない。大した意味もない争いは、世界を破滅に向かわせるだけだ。


 誰かを止めれば誰かが動く。無意味な戦いは新たな憎しみを生み出す。


 

 ―――お前は人形だな。



 それでいいと思う。何も考えず、ただ言われたことに従うだけが一番楽な道だ。


 俺には、今以前の記憶がない。気づいた時にはすでにここにいた。何らかの事故で記憶喪失になったのだと、兄上に聞かされた。証拠がない以上、それを否定する理由はもちろん無い。


 『ゼロ』。兄上が、自分のことさえも覚えていない俺に教えてくれた名前。名前にどんな意味があるのかを訊くと、こう答えてくれた。





 「物語の始まりだ」


 「物語?」


 「ゼロ―――つまり、№0―――は物語の始まりを意味する。そして、それだけじゃない。それ以上の意味がお前の名に込められている」





 無感情で機械的。命令に忠実な人形。それが俺だ。


 任務は任務。たとえ何があろうと任務は遂行しなければならない。無感情で機械的な俺は、彼女にこう言った。


 「興味ないね」








 「とりあえず、近辺から探してみるか……」


 一番近いのはデスペラード王国の城下町、『シャトル街』だ。シャトル街は世界一の科学技術を持つ。結果から言って、現在この街に住むことができるのは科学者や大臣などの地位の高い者たちだけだ。こんなところにあいつがいるとは到底思えないが、念のため探した方が良さそうだな。


 「おいっ、ちょっと待てよ!」


 どこからか声が聞こえる。この街には堅物しかいないと思っていたが、どうやらうるさい奴もいたようだ。


 「おーい、無視すんなって!」


 ガシっと肩を掴まれる。


 「……俺?」


 「お前だよ、お前!」


 十七、八才くらいの男が俺の前に立ちはだかった。


 「何の用だ?」


 その男はニックだと名乗った。ニックは旅人で、現在は雇われ兵士として稼いでいるらしい。


 「いやぁ、実は道に迷っちまってさ」


 「旅人なのに、か?」


 俺がそう切り返すと、ニックは快活に笑った。「オレも初めて知ったぜ! 旅人でも道に迷うことはあるんだなー」


 「で。オレさ、『ウェスタム街』に行きたいんだけど、そこってどっち方面にあるの?」


 「『ウェスタム街』? そこに行くのは止めた方がいい」


 「え、何で?」


 俺は溜息をついた。本当に知らないらしい。


 「あそこはこの国の中で最も治安が悪い場所だ。……と言ってもこのご時世、どこに行ってもガラの悪い連中はいるけどな」


 「ふうん。……アンタの忠告を無駄にするようで悪いけどさ、オレ、どうしてもそこに行きたいんだ」


 「そうか。ウェスタム街はここから北西に向かえば行くことができる」


 「北西? オレ、全然違う方に向かってたんだな。とにかくサンキュな! 実はウェスタム街にいる友達が何か困ってるらしいんだ」


 「友達?」


 「ああ。オレの幼馴染」


 友、か……。俺には馴染みのない言葉だ。それよりも俺が訊きたいのは。


 「なぜお前は他人のために危険を冒そうとする?」


 ニックは困ったように頭を掻いた。


 「なぜって言われてもなぁ。誰かが困っていたら助ける、それが人情ってもんだろ?」


 「理解できないな」


 すると奴は爆笑した。「あはははっ、面白い奴だな、アンタ! アンタの名は?」


 「……ゼロ」


 「よろしくな、ゼロ! ところでゼロは何をしていたんだ?」


 「俺はとある人物を探しているんだ」


 「大変だな。旅の途中で逢ったらアンタに教えてやるよ、そいつの特徴は?」


 俺はレイチェルの特徴を教えた。ただ、彼女の身分と名だけは伏せておいた。『姫』が脱走したことを国民が知ればどんなことが起こるか予想できない。


 「了解。じゃあ、またなー!」


 騒がしい奴だったな。あの男が言うように、また逢うことなど本当にあるのだろうか……?








 「へぇ、レイチェルってお姫様だったんだね」


 カイは関心したように言った。


 「そうよ。でも、あの頃は楽しい日々ではなかったわね。今の方がよっぽど幸せよ。―――あなたもそうでしょう? ゼロ」


 「まあな」


 あの頃は、マルスを兄だと思っていた。あんな奴を、自分の兄だと―――。



 

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