『LEC』本社ビル 8F
「はあっ……はぁっ……!!」
鈴は肩を上下させていた。重力に任せ、剣を床に突き立てる。
「くそっ……! どこまで続くんだよ……」
鈴は階段に表示されているプレートを見て言った。現在地点は八階だ。
「少し休もう」
ゼロが提案した。彼はまったく疲れていなさそうだった。反対に、激しく体力を消耗させていたのは玲だ。彼女は肩口の傷を庇って戦っていたので、いつも通りの動きが取れなかったのだ。
そして、明らかに調子が悪そうなのはクリスだった。彼は途中から剣を使っていない。魔法のみで戦っている。しかも魔物には効きにくい魔法で、だ。
「本当にどうしたんだよ、クリス兄。あんたらしくないぜ」
「柄でもないことをしてるってことくらい、僕だって分かっているさ。だけど、僕は」
クリスはそこで口を閉ざしてしまった。彼は頭を抱え、その場に倒れてしまったのだ。
「クリス?!」
レイチェルが駆け寄った。彼女は看護婦だった。
「僕のことは、気にしなくていい……」
クリスは薄く笑った。彼にしては珍しく、歯切れの悪い物言いだった。
「君たちは気にせず行くんだ。後で追いかけて行くよ」
「けど」メグリヤは反論しようとしたが、クリスに止められてしまった。
「足手まといは必要ない。それが戦争だ」
クリスは遠い目をして語った。
「僕たちは戦争をしている。戦争ではたくさんの人が死ぬ、国にとって重要なのはそれだけだ。誰が、どのような死に方をしたかなんて国には関係ない。彼らは自分にとって有益になることしかしないんだ」
早く行け、と指示をする。
「手遅れになる前に」
ごめんね、メグリヤ。どうやら僕は、最後まで君の味方にはなれないらしい。
絶望から逃げて逃げて逃げた先にあったもの。それはただの無力感だった。逃げることしかしない者に希望は見えない。
僕は偽りの光を見つけ、偽りの自分を繕った。その結果がこれだ。
「また後で会おう」ゼロは渋る鈴たちを連れて階段を駆け上って行った。
「ああ。またな」
さようなら、僕の大切な人たち。
次に会うときは――――。