『LEC』本社ビル 3F~4F
三階に上がると、そこはスポーツジムのようになっていた。中はがらんとしていて誰もいない。電気すらついていなかった。
「何だ……?」
あまりにも静かすぎる。
「!?」
レイチェルはカウンターのところで黒い物体を発見した。よく見ると、それは一匹のウェンクドリアンだった。
「死んでいる……」誰かがそう呟いた。
ウェンクドリアンは内臓を抉られて何者かの手により殺されていた。メグリヤは思わず顔を背けた。
「仲間割れか?」
「さあ、どうだろうね……」
クリスは死体から目を逸らして呟いた。大方予想はついている。
これは見せしめだ。誰かが誰かを裏切るということを無意識に知らせるための―――。
玲と鈴は何も言わず死体を見つめていた。心なしか、寂しそうな表情を浮かべている。きっと『彼ら』のことを思い出しているのだろう。
―――あんたはどれだけ人を嘲笑えば気が済むんだ。
苛立ちを通り越して哀れみさえ感じた。彼女はきっと、誰よりも可哀相な人だ。
案の定、四階についた途端ウェンクドリアンの群れが一斉に襲いかかってきた。このビルは一体何階建てなのだろう。とてもじゃないが、体力が持たない。
「―――っ!!」
クリスは剣を握る手に焼けつく痛みを感じ、思わず剣を放した。剣は大きな音を立てて床に落ちる。心配したメグリヤが駆け寄ってきた。クリスは大丈夫だと言い、何とか剣を拾い上げた。
”お主が再び闇に堕ちるのを待っているぞ”
その言葉が頭に焼きついて離れなかった。だが、どうしようもないことを考えていても仕方がない。クリスは目の前のことに集中しようとした。敵は絶えることがなく、彼らに休む暇さえ与えずに攻撃をしかけてくる。
「………」
ついにクリスは剣を鞘に納めた。これ以上は無理だった。彼は散弾型魔法弾を放つ。闇属性の魔法弾だ。魔物相手に大した効果は得られないかもしれないが、今のクリスにはこれ以外の方法で敵を突破する術を持たなかった。
元から多属性能力者特有の性質『劣性』で、普通の光属性能力者より力が弱いのは仕方がない。だが、それさえも失いつつある。わずかに残っている力を温存しなければ、間違いなくバッドエンドを迎えるだろうことは想像できた。
「高みの見物、か……。いい気なもんだね」
階段の先はまだまだ続いている―――。