潜入
「クリス様」
フリードリヒは先頭にいるクリスに声をかけた。
「私が調べたところによりますと、この建物の入口は二か所しかございません。一つは正面玄関。もう一つは倉庫へと続く裏口でございます。倉庫と言っても、ちゃんとビルの内部へと続いているらしいので大丈夫だと思います」
クリスはゼロたちと顔を見合わせた。「どうする? どっちから潜入した方がいいかな」
「裏口からの方がいいんじゃないか?」
ゼロが言った。レイチェルもそれに賛同する。双子は堂々と正面から行きたがっていたが、多数決の結果、裏口から行くことになった。
「うっ……!」
突然クリスが呻いた。
「どうしたの、クリス兄」玲が不安げに訊く。
「……いや。何でもない、大丈夫だよ」
―――何だ? さっきから頭痛が……。
それはまるで、引いては満ちる波のように。
「見つかってしまう前に行こう」
倉庫の中は埃臭かった。メグリヤは思わず咳き込んでいた。
「やあね、ちゃんと掃除しているのかしら?」
レイチェルは汚いものでも見るかのように顔を顰めて言った。
僕は彼らを裏切ることになる、いずれ必ず……。
「どうしたんだよクリス兄。顔色悪いぜ。さっきもそうだったけど、具合悪いのか?」
鈴が後ろから尋ねてきた。僕は咄嗟に―――自分でも嫌になるほどやっているんだけど―――笑って誤魔化した。
「僕は元気だよ。倉庫の中が薄暗いせいでそう見えるのかもしれないけどね」
先頭を歩いていて良かった。もし後ろの方を歩いていて、誰かに振り向かれでもしたら、僕は残されたわずかな時間でさえも彼らと共に行動できなくなるかもしれない。それくらい頭痛は酷かったし、僕も酷い顔をしていると思う。
「それにしても、ぞっとしないよな。これだけ俺らが敵の懐に入り込んでるっていうのに、まともに戦ったのは一回だけなんだぜ?」
鈴は何気なく言った。僕は彼の言葉を聞いて後ろめたい気持ちになった。
敵の数が少ないのは当たり前だ。……僕が彼らと行動している限り、彼らの行動は敵に筒抜けなのだから。
「心配しなくても大丈夫よ。これから嫌というほど戦うことになると思うから」
そう言って、レイチェルは不敵な笑みを浮かべた。勝つ気は十分あるらしい。
「鈴、鈴っ」
カイは鈴の肩の上に乗って、彼に声をかけた。いつの間にか二人は仲良くなったようだ。
「ん? 何だよ、カイ」
「もし鈴たちが戦うことになったら、ボクはどうしていればいい?」
肩の上にいては邪魔になるだろう、とカイは悲しそうな表情をした。鈴はカイの頭を撫で、「じゃあ、ポケットの中にいていいよ」と言った。カイは嬉しそうに頷き、鈴の服の中へ潜っていく。
「うぁっ?! こらっ、カイ!! くすぐったいから、はしゃぐなーー!!」
カイは楽しそうに「嫌だよ~!」と言って笑う。
見ていて微笑ましい。それはメグリヤたちも同じなようで、にこにこ笑っていた―――。
”わしの元に戻ってこい”
声が聞こえるんだ。
”抗おうとしても無駄じゃ。お主も分かっておるのじゃろう?”
――― うるさい、黙れ!
”くくくっ……。そうじゃな、わしは黙っていた方がいいのかもしれん”
そして『声』はこう言った。
”じゃが、わしは知っておるぞ。お主が光属性能力者の力を失いつつあることを”
――― 失せろ!!!
”くくっ……。ハハハハっ!! わしはお主が再び闇に堕ちるのを待っているぞ!!”
最上階デ、待ッテイル。