密告
「して、現状はどうなっておるのじゃ?」
「イハウェル王は光の楽園と平和条約を結びたがっております」
「ほう……。お主はそれをどう思う?」
フローラは兵士に尋ねた。兵士は表情を変えることもなく、淡々と告げた。
「私はそれについて何も思いません。しかし平和条約を結べば、我が国の軍事力は低下することになるでしょう」
フローラは満足げに頷いた。
「軍事力を失えば、民の反乱を抑えることができぬようになる。やはり、平和条約は結ぶべきではないな」
偽りの女神は僕に囁く。
「お主は本当に、最高の密告者じゃな。クリスチアナ」
闇に溺れし者。それこそが自分に相応しい肩書きだとクリスは思った。
綺麗事ばかり言う自分が嫌いだった。こうして仲間を裏切っている自分も―――。
「やりーっ! クリス兄を抜いてやったぜ!」
鈴が先を走りながら僕の方を振り返り、Vサインをした。
「あははっ。速いね、鈴」
「ちょっと、走らないでよ~! 私たち、迷子になっちゃうじゃないの」
レイチェルたちは笑いながら追いついてこようとする。この笑顔を僕はあと何回見れるだろうか。
そう遠くないうちに、僕は彼らを裏切る。
――― 一週間前。光の楽園、城内にて。
背後に気配を感じた。
「いるんだったら出てこいよ、チャールズ」
「あらぁ~、バレていましたか」
皇太子チャールズはわざとらしく額に手を当てて柱の陰から出てきた。
「結局、アナタはお仲間を裏切ることにしたんですね~?」
「……どういう意味だ?」
「どういう意味もこうにもないでショ。愛しのフローラ様にイハウェル王国の内情を密告するってことは、アナタが仲間だと思っている人たちを裏切るってことだ」
チャールズはにたりと笑う。「アナタって見かけ通り、残酷で冷酷なんですねぇ」
僕は「心外だ」と言ってやった。それらしく見えるように肩を竦めてみせる。
「残酷? 冷酷? まったく、酷い言われようだね」
「酷いも何も、事実そうじゃないですか。――― 七年前、罪なき人々を無残に殺したのはどこの誰でしたっけ?」
……殺シテヤル。
「さあ、誰なんだろうね?」
どうせ何もかもめちゃくちゃになってしまうのなら。僕は、昔の僕に戻ってやるよ。
気ニクワナイ奴ハ、全テ殺シテヤル。