修行 ~魔術編1~
「へぇ、君も奴隷なんだ? ボクと同じだね! 見張りがいないうちに、ボクと一緒に遊ぼう!」
そう言って、あの時彼は快活に笑った。私は、同じ境遇にありながらそんな笑顔を浮かべることができる彼に憧れた。どうしたらそのように笑えるの? 私はとても不思議だった。ある時それを訊くと、彼はこう答えた。「ヒトにはね、ココロがあるんだよ。嬉しい時は笑って、悲しい時は泣く。悔しい時は怒るんだ」
ココロ? それがあれば私は何か変わるのか。
「ボクね、夢があるんだ」
「夢?」
「ボクの家族は、みんな離れ離れになっちゃったんだ。母さんと父さんは……もう、しょうがないやって思っている。だけど兄さんは違うよ。だからボクは、兄さんと一緒に暮らしたいんだ」
再び彼は笑う。
「ゼッタイ秘密だよ」
彼がいたから、彼が傍にいてくれたから、私は私でいることができた。
「何も示してないんじゃない?」
再び逢えた時、とても嬉しかったのに。
どうして、そんな哀しい顔をするの?
どうして、私のことを覚えていないの?
ココロを持っていたあの少年は、ココロを失って再び私の前に現れた。
「―――ねえ、聞いてる?」
鈴は訝しげに顔を顰めた。私ははっとして顔を上げる。
「ごめんなさい、聞いてなかったわ。何て言っていたの?」
「メグ姉って、何気にマイペースなところがあるよね」鈴は軽くため息をついた。
「魔術について聞いていたんだよ、メグ姉。俺と玲、どっちが水属性能力者でどっちが雷属性能力者なの?」
「それは調べてみれば分かるわ。でもまずは魔法の使い方を覚えなくちゃね。魔法には四つの種類があるのよ。一つ目は、攻撃系。名前の通り、敵に魔法エネルギーを叩き込むことができる。攻撃の仕方は能力者の好みと腕によるわね。攻撃系で一般的なのは『魔法弾』。魔法エネルギーを圧縮させるだけの攻撃方法よ。練習すれば誰にでも扱えるようになるから安心して。その他に『一点集中魔法』―――ゼロが使った攻撃もこれだったわね―――と、『散弾型魔法弾』などがあるわ」
私はホワイトボードにそれを書きこんでいく。
「ちなみに、残りの魔法の種類というのも書いておくわ」
1、攻撃系:魔法で攻撃するタイプのこと。
魔法弾、一点集中魔法、散弾型魔法弾などが使える。
2、防御系:魔法で防御するタイプのこと。
魔障壁、障壁、魔障障壁などが使える。
3、治癒系:魔法で傷や病気を回復させることができるタイプのこと。
4、補助系:次の攻撃、防御などに繋げるための補助魔法を使えるタイプのこと。
「魔法の使い方を覚えるということは、自分が何の属性を持っているのか、どんなタイプの魔法を使うことができるのかを把握しなければならないの。……私は治癒系だから、ここから先のことをあなたたちに教えることはできない」
「えっ。じゃあ、どうするんだよ?」鈴が慌てる。
「大丈夫。ゼロならあなたたちに上手く教えることができるわ」
なぜかって? 決まっているじゃない。だってゼロは―――劣性だけど―――補助系の魔法が使えるもの。
―――予想していた通り、双子が俺の元に来た。補助系魔法が使えるのはこの中で俺だけだから、仕方ないことなのだが。
この短期間で魔法を使いこなせるようになるには、補助が必要だ。剣術なら剣を交えることで上達が早くなるし、魔術なら魔法を使ってみることが一番効果的だ。つまり、実際にやってみろってことだな。
「じゃあ、始めようか」