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外の世界  作者:
外の世界
36/75

修行 ~一時の休息~


 「鈴たち、何を話しているのかしら?」


 模擬試合が終わった玲は隣に腰をおろしているクリスに尋ねた。


 「さあ、何だろうね。僕も分からないや」


 やけにあっさりと言うクリス。彼には大体想像がついているのだろうと玲は思った。


 クリスと出会ってから約二年。彼がただただ優しいわけではないということを玲は知っていた。無償の優しさなんて、あるわけがない―――。


 だが、鈴はそのことに気付いていないようだった。


 やや離れたところで鈴とゼロが試合をしている。ここからでは聞こえないが、彼らは何か話していた。その様子は、とても楽しそうに見えた。


 私には、できない。玲はそう思った。きっと私は、本来あるべき感情が欠落しているのだ。


 ―――誰か助ケテ。


 ずっと変わらない、私の時は止まったまま。


 ……自覚していないかもしれないけれど、リンは私よりも純粋だった。怒って、笑って、泣いて。羨ましい。


 鈴はここから抜け出した。だって、楽しそうにしているじゃない。だけど、私は? 


 私ハ何モ変ワッテイナイ。










 「……ダ」


 「え?」


 クリスは振り返った。


 「嫌ダヨ……」


 玲はぽろぽろと涙を流していた。


 「えっ、ちょっ、玲?!」


 珍しくクリスが慌てる。突然のことに頭が混乱していた。―――というより、初めてのことに驚いていたのだ。


 「一人は嫌だよっ……!」


 どんどん先に行ってしまう鈴。このままでは、いずれ振り向いてくれなくなる。


 変わらない、変われない自分。


 「どうすればいいかなんて、分からないよ。でも、一人は嫌なのっ!!」


 「玲……」


 無理ダヨ、一人デ生キテ行クナンテ。


 「私っ、私は―――」


 その時、彼女は急に後ろから抱きしめられた。


 「え……?」玲は顔を斜め後ろに向ける。


 「大丈夫だよ、玲」


 鈴だった。彼はそう言って微笑んだ。その笑顔はどこか哀しげだった。


 「大丈夫、俺はどこにも行ったりしないから。……君を独りぼっちにさせて、ごめん」


 「そんなこと」


 そんなことはない、彼が謝る必要がない。勝手なことをしていたのは私。勝手に独りぼっちになったのは私だ。


 「俺は」


 鈴は出し抜けに言った。


 「強くなりたいんだ。ゼロさんとかクリス兄みたいにさ。ずっと守られてるのって、何だか情けないじゃん? この二年間、ずっとそう思ってた。がむしゃらに修行していた。だけど、本当は甘えていたのかもしれないな。……ゼロさんが言っていたんだ、『変わろうと思えばいつだって変わることはできる』んだって。だからね、玲」


 鈴は目を閉じた。風の音、鳥のさえずりが聞こえる。


 「強くなろう、一緒に。だって俺らは『スズ』なんだろ?」


 鈴は不敵の笑みを浮かべて言った。


 「うんっ……!」


 強くなるんだ、弱い自分に打ち勝つために―――。

 

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