火焔山
「よお、カイじゃねえか!」
火焔山の中腹辺りで一匹のクロゥテルがカイに声をかけた。僕たちに一瞥くれた後、彼はこう吐き捨てた。
「お前、どうして人間と一緒にいるんだよ? もしかして、ラチられているのか?!」
カイはぶんぶんと首を振る。「違うよ、この人たちは悪い人じゃないよ! 川で溺れていた僕を助けてくれた人たちなんだ」
「ふうん。人間が、ねぇ……」
クロゥテルは意味ありげに僕たちを見る。
「まあ、こいつ(カイ)を助けてくれたんだから、いい人たちなんだよな」
そのクロゥテルは納得したように何度も頷いた。彼はシュンエイと名乗った。
「あんたらの名は?」
「俺は鈴。よろしくな」
「玲よ」
「私はメグリヤ。向こうで地図を広げているのがゼロで、その隣にいる女の人がレイチェル」
メグリヤはゼロたちを見やって言った。
「私の隣にいらっしゃるのがアリス様です。私はアリス様の執事、フリードリヒと申します」
「僕はクリスチアナ」
「クリスティ……?」シュンエイは首を傾げて言った。
「クリスって呼んでくれ」
「オーケー、分かったよ」
ところでだ、とシュンエイは話を転換した。
「お前ら、本当にこのまま頂上に行くつもりか?」
「どういうことだい?」
僕は訊き返した。
「言っとくがな、このまま頂上に向かったら、あんたら死んじまうぜ?」
「死ぬ?」
「ああ。ここから先は想像以上に気圧が高いんだ。俺たちワニ族は昔からここに住んでいるから耐久性があるんだが、ひ弱な人間には耐えられないだろうな」
頂上に着いた時点でペチャンコになってお終いだぜ、とシュンエイは肩を竦めた。
「本当に?」
疑い深そうに言ったのはアリスだった。
「だって私を狙っている組織の人間は皆、サングラスしか装備していなかったわ」
「あぁ、そりゃ人間じゃないな。ウェンクドリアンだ」
「ウェンクドリアンって、あの」レイチェルが驚きに目を見開いて言う。
「ああ、その通りだ。ウェンクドリアンはオオカミ族の一種で、頭が良い。おまけにとても危険な連中なんだ」
「その、ウェンク……何とかって奴らが私の命を狙っているのね?!」
アリスは激情した。
「落ち着いてくださいませ、アリス様」
「私に命令するんじゃないわよっ、フリードリヒ!」
彼女は苛立ちのあまり、地団太を踏んだ。まるで子供だ。彼女はきっと、何が正しくて何が悪いのかを教えられずに今日まで生きていたのだろう。
「どうやったら頂上まで行くことができるだい?」
僕はシュンエイに訊いた。すると、シュンエイはとある提案をした―――。