エラルド街
「いい加減、自分の否を認めなさいよ!」
「俺は何も悪くねえよ!」
道中、二人は歩きながら喧嘩をしていた。玲は左手にスクラマサクスを、鈴は右手にツーハンデッドソードを握っている。お互い、殺気が溢れ出ていた。
「どうしてそんなに生意気になってしまったのかしら。ヘタレだった時の方が可愛かったわよ!」
「どうしてそんなに口うるさくなっちゃったんだよ? 無口だった時の方が大人っぽかったぜ!」
クリスたちが入り込める隙間がない。どちらにしろ、元気になったのは良いことなのだが。
目の前には、エラルド街が見える。
「な、何だ……?」
エラルド街に足を踏み入れた彼らは唖然とした。エラルド街の住民は、人間ではなかったのだ。
「ワニ……?」
玲と鈴は喧嘩をしていたことも忘れ、お互いの顔を見た。
恐ろしく小さいワニが街を歩き、仲間たちと喋っている。彼らの全長は、大体人間の手のひらにすっぽりと納まるぐらいだ。彼らは『クロゥテル』という名の手乗りワニ族だった。
クロゥテルの群れは、突然やって来たクリスたちをぎろりと睨んだ。
「い、行きましょ」
レイチェルは、興味深そうにトカゲたちを見る玲と鈴の背中を押すようにして先を急ぐ。
「この世界には、ヒト以外の生き物がいたんだね」鈴が言う。
「僕らは本当に、この世界の事を何も知らなかったんだ」
レイチェルは、エラルド街にクロゥテルが住んでいることを知っていた。彼女はかつてここに来たことがあるからだ。
クロゥテルは人間を嫌っている。彼らの種族を減少させたのは言うまでもない、人間だった。
クロゥテルの皮は丈夫で長持ちする。―――奴らは手に乗るくらい小さい、恐れることはないんだ。
そのことに気付いた人間は殺戮を繰り返し、クロゥテルを絶滅の危機に陥れたのだった。
エラルド街は、そんな彼らを匿うために作られた街なのである。
「面を上げよ」
フローラは目の前にいる兵士に言った。
「お主を信用していないわけでないが、わしはお主が我らの味方であるという確証が欲しいのじゃ。―――イハウェル王が何をしようとしているのか、探ってくれはせぬか。わしに、お主を信用させてくれ」
兵士―――クリス―――は迷うことなくその言葉を口にした。
「了解いたしました、フローラ様」