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外の世界  作者:
外の世界
26/75

問題点の浮上


 その日の夜。満月が顔をのぞかせていた。心地よい風が外から吹き込んでくる。

 「どうするの?」

 その声にクリスは振り返った。

 「やあ、レイチェル。君も涼みに来たのかい?」

 「馬鹿ね、あなたが心配だからよ。とりあえず今日はお引き取り頂いたけど、あんな無茶なことを引きうけちゃっていいの?」

 「関係ないね。無茶だとしても、無謀だったとしても、僕は安請け合いをしたわけじゃないんだ。困ってる人を助けるのが騎士ぼくらの役目だから」

 それに、とクリスは続ける。

 「君たちがいるじゃないか。一人ではどうにもならなかったことが、誰かが傍にいるだけでどうにかすることができる。そうだろう?」

 「まあね」

 レイチェルは空を見上げる。雲が月を覆い隠した。「何も起こらなければ良いのだけれど……」

 ―――それから数時間後、夜が明けた。アリスとフリードリヒが再び城の門を潜りやって来る。

 「フリードリヒさん」

 玲は彼を呼び止めた。「ちょっとお話が」





 「わたくしめのことですか?」

 フリードリヒは目をぱちくりさせた。その一瞬だけ、彼を取り巻く暗い影が消えた気がした。彼は思っていたほど年老いているわけではないようだった。

 「はい。アリスさんのことは伺いましたけど、あなたのことは存じておりませんので」

 「私は―――」

 「いってぇ!!!」

 鈴は剣を構えたまま、ズササササッと玲たちの前に転がってきた。

 「クリス兄っ、もうちょっと手加減してくれよ!」

 「う~ん、手加減って言われてもなぁ……。やっぱり、体格の問題なんじゃないかな」

 「ねえ、ちょっと静かにしてくれないかしら?」

 「何言ってんだよ、クリス兄。そんなこと言ったら俺、いつまで経っても国に貢献できねえじゃん。俺はクリス兄やゼロさんみたいになりたいんだってば!!」

 「鈴、もう少し静かに―――」

 「それなら他の武器でもいいんじゃないか? その剣は軽いし、長さを生かすことで適切な距離からの打ち合いで有効的な戦い方ができるけど、鈴だと常時使い続けるのには無理があるんだよ。それに相当な体力が必要とされるし、近づかれると対処法が少ない。訓練すれば誰でも扱えるわけではないんだ。僕は、適切な長さなら十分対応できる槍の方をおすすめするよ」

 小柄な鈴に、二メートル近い長さを持つツーハンデットソードは無謀である。だが、鈴は不敵の笑みを浮かべて言った。すぐそばで彼女レイが苛立っていることに気付かず。

 「大丈夫だよ。だいぶ間合いを計ることができるようになってきたし、体力には自信があるからね」

 実際、間合いさえ詰められなければ戦えるようになってきている。

 「鈴、クリス兄………」

 その瞬間、玲は立ち上がった。右手にはスクラマサクス―――鉈のようなもの―――が握られている。

 「今はフリードリヒと話をしているから、邪魔しないでくれる?」

 「れ、玲……?」

 鈴とクリスの顔色は、心なしか蒼ざめている。

 「怪我させない保障はしないからねっ」

 そう言ってにっこり微笑む彼女。目が笑っていない。

 





 「とりあえず、アリスさんを狙っている組織を壊滅させないといけないわね」

 正気を取り戻した玲は淡々と述べた。その言葉を引き継ぐかのように鈴は言う。「手加減ナシでいいなら、ついて行くぜ」

 「破壊に関しては天才的だよね、君ら」

 クリスは褒めているのか貶しているのか分からないことを言った。ゼロが「それはお前も同じだろ」とツッコむ。

 「ん? ってことはクリス兄、昔何かやっちまったのか?」

 「あはは、そんなことないよ。僕はそこら辺にいるいたって平凡な兵士だからね。そうだろう? メグリヤ」

 「えっ?!」

 突然話を振られたメグリヤは困惑する。

 「え、ええ。……そうよ」

 その空白は何なのだと鈴は思ったが、それを訊く前にクリスによって話題を変えられてしまった。彼にとってそれは、触れられたくないことだったのだろう。

 鈴はクリスたちのことをあまり知らない。なぜ彼らが自分たちに優しくしてくれるのか、ここまでしてくれるのか分からなかった。ただのお情けなのかと鈴は訊いたことがある。その時、普段笑顔を絶やさないメグリヤは深く悲しみ、怒ったのだ。

 「私たちは、損得勘定であなたたちを見ているわけじゃない。私は、同情なんかしない」

 それが答えだった。玲は意味が理解できていないようで不思議そうにしていたが、鈴はその答えに納得した。彼らは自分たちを利用しようと思ってはいないのだと。 

 「―――らのアジトは火焔山かえんざんにあるんだな?」

 ゼロが地図を広げながら言った。どうやら話し合いが進んでいたらしい。

 火焔山は現在、休火山になっている。噂では、火焔山が活動することは当分ないので安心して登山することができるとのこと。

 「火焔山、か。エラルド街の外れにある山ね」

 レイチェルは考え込むように言った。

 「何か問題でもあるのですか?」

 アリスは不安げに訊く。

 「火焔山自体に問題はないの。問題は、エラルド街にあるのよね……」

 イハウェル王国の最東端にある街のことだ。

 「実はまだイハウェル王の指示が行き届いていなくて、スラム街のままなのよ。要するに、治安が悪いってこと」

 その時のレイチェルは、困ったような何とも言えない表情をしていた―――。

 

 

 

 

 

 


 

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