無限ホール
僕たちが望んだもの。それは。
「ねえ」
メグリヤが声をかけてきた。いくつもの死体を見てなお、彼女は気丈だった。
「一つ訊きたいことがあるのだけれど」
「いいよ」
どうせ僕たちは終わっている。これ以上何を隠し通すというのか。
「どうやって密室状態を作ったの?」
「密室のトリック? ……ははっ、あんなの簡単だよ」
僕たちはキリエさんに会いに行った。……正直、彼女を殺すのには躊躇いがあった。彼女はいつでも僕たちを守ってくれていた。彼女を殺したくなかったと今でも僕たちは思っている。けれど、彼女がここに存在する限り、僕らはここから出られない。
僕たちは『鈴』だ。彼女が望むのなら、それは僕の望みでもある。
キリエさんは殺される間際にこう言った。
「ありがとう」
どうして彼女は礼を言うのか。僕らには分からなかった。ただ一つだけ分かることは、彼女は僕たちが何をしようとしているのか全て分かっていたのだということだ。
僕は暫くの間、放心していた。彼女は最期まで、僕たちの母さんみたいな人だった。
「鈴」
玲に呼びかけられて僕ははっとした。まだやるべきことは残っている―――。
玲がワープロで偽物の遺書を作っている間、僕はキリエさんの死体をロープで吊り上げた。途中から玲が手伝ってくれたから良いものの、これには骨が折れた。
キリエさんが自殺したように見せかけるには、これだけでは不十分だ。いくら外との接触がほとんどない僕らでもそれくらいは分かる。もっと、キリエさんの死を自殺だと信じ込ませられるような証拠が必要だ。
「密室状態にしましょう」
唐突に玲が言った。
「でも……僕らはこの家の住人だ。鍵をこの部屋の中に残しておかなければ真っ先に疑われてしまうよ。どうやって鍵なしで密室にするの?」
すると、彼女はこう答えた。
「いい、鈴? 私たちの外見はそう変わらないわ。つい最近知り合ったばかりの人間が、服装だけで私たちを見分けられるとは思えない」
僕はその時点で彼女が言いたいことを理解した。
「つまり、僕はこの部屋に残っていればいいんだね?」
「その通りよ。私は時々あなたに変装して彼らの前に姿を現す。いずれ、キリエさんがいないことに彼らは気付くわ。そしたら私は彼らをここに誘導する。彼らが―――誰でもいい、とにかく誰か私以外の人間がドアに鍵がかかっていることを確認したら突入するわ」
「僕はその時どうしていればいいの?」
「きっと彼らは死体に目を奪われる。その隙に部屋から抜け出し、騒ぎを聞きつけてやってきたフリをすればいいの。目立たないよう一番後ろに行くのがいいわね」
「―――ということだよ」
僕は話し終えた。
「私たちはまんまと騙されていたってわけね」
メグリヤは包帯を手に取りながら言う。
「外見が似ている双子にしかできないトリック、ということか」
クリスは感心したように頷いた。
「それより」
クリスが僕たちに言う。「一緒にイハウェル王国に行かないかい?」
僕たちが望んでいたもの。外の世界。
「うん……!」
抜け出せた気がした。狂気から―――。




