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外の世界  作者:
無限ホール
17/75

狂った世界(クルッタ セカイ)8


 「私たちはこのまま何もできず、犯人に殺されてしまうのでしょうか……」

 アレンは独り言のように言った。メグリヤは首を横に振った。

 「そんなことはないわ。できることなら、いくらでもあるはず」

 「え……?」

 「私たちはまだ何もしていないじゃない。博士が死んだ、キリエさんが死んだってそればかり騒いでいる。犯人の手掛かりとなるものすら確認していないのよ。ここで座り込んでいるより、まずはそれをするべきじゃない?」

 「そ、そうですね。―――私はいつも間違えてばかりです。私に兵士をする資格などあるのでしょうか……」

 アレンは悩んでいた。ウィリアム大尉やライトのように能力があるわけでもなく、クリスのように頭が切れるわけでもなく、メグリヤのように心が強いわけでもない。自分は至って平凡なのだと。

 メグリヤは答えなかった。答えは自分で見つけるべきなのだと言われているような気がした。ただ一言、彼女はこう言った。

 「まずは、キリエさんが殺された現場に行きましょう」

 アレンとメグリヤはキリエの部屋へ向かった。ウィリアムが博士とキリエの死体を応接間に運んでいたので、すでに死体はなかった。死体さえなければ、そこはただの殺風景な部屋となる。

 「やあ、どうしたんだい?」

 そこにはすでに、クリスがいた。

 「もしかして、あなたも?」

 クリスは頷く。「真相を知りたくてね」

 「問題は、これだ」

 クリスがパソコンのディスプレイを軽く叩いた。メグリヤとアレンはそこに打たれた文字を見る。

 『罪を犯したのは私です』

 「こんな遺書なら、誰だって作ることができるわね。確かキリエさんが亡くなったのは―――」

 「深夜二時だ」クリスがすかさず言った。

 「その時間帯なら犯人がここにやって来たのを誰も目撃できなかったのは仕方がないわね……」

 あの日、キリエが死んでいるのを最初に発見したのはクリスだった。

 まだ起きていないのかもしれないと彼はキリエの部屋へ向かい、呼びかけてみた。返事がない。どうしたんだろうと思っているところに玲が来た。クリスはキリエの様子を見てきてほしいと玲に頼み、玲はそれを承諾する。彼女が扉を開けようとドアノブに手をかけたが、開かなかった。そのうちにウィリアムたちがやってきたのだ。

 彼らはキリエがどこにもいないことを確認した上でクリスたちのとこへやって来たようだった。

 ウィリアムとクリスは意を決したように、扉を蹴破った。その先に、首を吊った状態のキリエと頭部がない博士の死体があったのだった―――。

 「私たちがどの順番でキリエさんの部屋に入ったのか。そして、彼女の遺体を発見した時の私たちの立ち位置をアレン、あなたは覚えている?」

 「ええっと……」

 アレンは考え込むように首を傾げた。

 「こんな感じだったのではないでしょうか」

 彼は胸ポケットにしまっていた手帳を取り出し、ペンを走らせた。





 ・部屋に入った順番

  ウィリアム➔玲➔ライト





 「その次に私が入室したので、後の方はどの順番に入室されたのか覚えていません。もしかしたら、同時に入ったかもしれませんし。メグリヤさんはどうなんです?」

 「私はクリスと一緒に入ったわ。残念ながら、何番目かは忘れてしまったけれど……。悔しいわね」

 「ちなみに、立ち位置はこんな感じでした」



           |窓|  キリエ  |机| 

  

           |本棚|     博士   |ベッド|



              クリス メグリヤ   ウィリアム    

                 玲 ライト アレン

                  鈴


                   |扉|

                   

                    

 「よく覚えていたな」

 クリスは目を丸くして驚いた。

 「まあ、後列にいましたから」

 「でも、これではっきりしたわね。ライトとクリス、そしてあなたも犯人ではないわ」

 「どうしてですか?」

 「私とクリスはずっと一緒にいたの。もし密室を作るために何か変な細工をしていたとしたら、私が気付くはずよ。それに、ライトとあなたは博士が殺された後にやってきた。これが連続殺人だとするのなら、あなたたちは犯人を殺すのが無理よね」

 待ってください、とアレンはメグリヤの推理を止めた。

 「犯人扱いされないのは喜ばしいことなんですが、メグリヤさんの説には多少無理があります」

 「確かに。随分な消去法だね」

 「あら、どうして?」メグリヤはなぜか楽しそうに訊いた。

 「博士もキリエさんも夜中に殺されているんです。もしかしたら就寝時、つまりメグリヤさんとクリスさんが別れた時にクリスさんは博士を殺しに―――または、キリエさんを殺しに―――行ったのかもしれない。それに私たちも彼らを殺そうと思えば、一日目に到着していないフリをして博士を殺していたかもしれないんですよ? 私たちだって、例外ではありません」

 アレンがそう言うと、メグリヤは「確かにそうね」とあっさり引いた。

 「そうだ、クリス。この屋敷の見取り図を持ってない?」

 「ああ、もちろん」



                  ー李博士宅ー


 地下


 ・実験室


 一階


 ・食堂

 ・礼拝堂

 ・玄関ホール

 ・ホール

 ・博士の部屋

 ・キリエの部屋


 二階

 

 ・玲の部屋

 ・鈴の部屋

 ・応接間

 ・客室





 「犯人を捕まえる気なんだな」、とクリスは言った。

 メグリヤはキリエが首を吊っていた場所を見つめたまま「ええ」と答えた。

 彼女ならこの事件を終わらせることができるかもしれない。二人のやり取りを見守りながら、アレンはそう思った。












 翌日、メグリヤは礼拝堂の十字架に張り付けられて死んでいた―――。


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