ほのぼの(?)2
「どうしたの鈴くん?!」
メグリヤは困惑していた。しかし、困り果てているわけではなかった。目の前の光景がやや信じられないだけだ。
「べ、別に何でもない……」
鈴はそっぽを向いて言った。頬がほのかに赤い。彼はなんと今、メイド服を着ているのであった。着慣れていないせいか―――慣れていたら、それはおかしいのだが―――もじもじしている。今にも座り込んでしまいそうな勢いだった。
童顔のせいで似合っているという事実が悲しい。そして、それを自覚している自分も嫌だった。
「どうしてこんなことに?」
「言えない。……言ったら、どんな目に遭うか分からない」
これが答えだった。彼が本当に逆らえないと思っているのはただ一人だ。
「鈴くんって、今いくつ?」
「知らない」
ぶっきらぼうに答える。これは嘘ではなく、本当に知らなかったのだ。
「鈴っ」
玲が息を切らしてやってきた。鈴はなぜだか若干引き気味だった。彼が玲から逃げようとしているように思えたのは、メグリヤだけだろうか。
「み~つけたっ!」
満面の笑顔を浮かべる玲。そして、鈴に思い切り抱きついた。
「???!!」
初めて玲の人間味のある行動を見た一同はただただ驚くばかりである。そんなことはお構いなしに、玲はニコニコして鈴に話しかけた、抱きついたまま。
「可愛いわよ、鈴! やっぱり鈴はこうでなくっちゃね!」
「玲、苦しいんだけど……」
「正直、どうしていつも可愛くない格好してるのか疑問でしょうがないんだよね。鈴は可愛いんだから、可愛い服を着るべきよ」
ぎゅぅぅう、と力強く抱きしめる玲。
「ね、姉さん、苦しい!!」
玲の目がスッと細まる。
「『姉さん』? 私は一度だって『姉さん』と呼んで欲しいなんて言っていないわ」
「げほっ、ごほっ。……だって、姉さんは姉さんじゃないか」
いくら双子とはいえ、姉弟だ。それは変わらないだろうと鈴は言う。すると、玲はとんでもないことを言い出した。
「ふうん。私の言うことが聞けないのね、鈴? また監禁してあげてもいいのよ?」
この家には変わり者しかいない、とクリスは確信した。
ドSでロリコンな天才科学者。普段は無表情無感情を貫き通しているにも関らず、スイッチが入れ替わるような豹変振りを見せるヤンデレな姉。ヘタレでツンデレな弟―――もしかしたら彼もヤンデレかもしれない―――突っ込みどころは山ほどある。
「『また』って何だよ、『また』って」
前にもそういうことがあったのか。というより、この閉鎖された空間の中で監禁されても大した効果は望めないと思うが。
「か、監禁は止めてよっ。何でもするから、それは嫌だよ」
……効果は絶大だった。この家から出られないことと、部屋から出られないことに何の違いがあるのだろうか。行動範囲が狭くなるだけじゃないのか? そう言おうと思ったが駄目だ、玲から『話を遮るな』オーラが発散されている。まさか彼女がブラコンだったなんて、思いもしなかった。はた迷惑な愛情だ。
玲はにやりと笑った。あーあ、墓穴掘りやがって。
「分かった、監禁はやめてあげる」
「え? あ、ありがとう……」
目を丸くして驚く鈴。彼女が自分の主張を聞いてくれたのは初めてだったからだ。人の話を全然聞かないお姫様は、これ以上ないと言うほどの嫌な笑みを浮かべていた。
「その代わり、教えてほしいことがあるの」