ほのぼの(?)
ちょっとほのぼのとした感じにしてみました。
博士が僕の前を歩く。階段を登る音が響いた。それ以外に音はない。会話はない。
僕はポケットに手を突っ込み、ナイフをもて遊んでいた。人を殺すということ自体は恐くなかったが、この静けさは少し不気味だと思った。
ついに書斎にたどり着いた。博士が扉を開ける。初めて書斎に足を踏み入れたが、この家の廊下のように、そこは殺風景だった。何も飾られていない。
「ここに座れ」
博士は視線を椅子へと向けた。僕は素直に博士の指示に従う。アンタハ モウスグ 死ヌンダ。
「逃げるなんて、どうせ無理だよ」
「玲……?」
そこには彼女もいた。そうか、君が博士に告げ口をシタンダネ。
逃げる? 僕が何から逃げるって言うんだ。
感情のこもっていない目。僕と同じだ。僕たちが似ていないなんて、嘘だ。ただ一つだけ違うのは、彼女は人殺しではないということ。僕はこれから博士たちを殺すんだから、立派な人殺しだ。
彼女は相変わらず無表情で、行動も淡々としていた。書斎の扉を音も立てずに閉める。無駄な動きがない、それはまるで―――。
「さて」
博士の声は一際大きく響いたような気がした。
「何か言うことは?」
博士は人を見下すような口調で話す。それが聞けなくなるなんて、ちょっと寂しいかもね。
玲がいたのは誤算だったけど、まあいい。次に逢う時には必ず隙ができる。その瞬間を狙えばいいだけの話だ。
「―――っ?!」
どうして声が出ない? 言うんだ、言わなきゃ駄目だ! そうしなければ機会を失ってしまう!
「……約…束を、破ってごめんなさい……」
自分で言うのも何だけど、正直呆れた。大発見とでも言うべきか。僕には悲しいとも嬉しいとも思ったことはないが、どうやら『恐怖』という感情はあるらしい。
「他には?」
はぁ、と思わずため息が出そうになる。そういえば、博士はドSだったっけ。
それなら僕はこう言えばいいのか? 博士が聞きたいと思っていることを。
「え? あ、その…え…っと……」
「他には?」
「……は、ハカセの言うこと、守ります……」
「それだけか? 私が散々言ってきたことをお前は忘れているな」
まだ何か言わせるつもり? いい加減にしてよ、こっちは好きでやってるわけじゃないんだしさ。
「ボ、ボクはハカセの……」
……うわぁ、何か本当に恥ずかしくなってきたんですけど。しかも何? 玲がずっとこっち見てるし! こ、これ以上言いたくない……。
「何だって?」
「……ぐすっ。一生、ハカセのもの…です……」
ううっ、早く博士を殺してやりたい………。っていうか玲、どうしてそんなに嬉々とした笑顔浮かべているのさ。
はぁ、と思わずため息が出る。
「約束を破ってごめんなさい……」
「他には?」
「え? あ、その…え…っと……」
本当、見てられないな。話があるからやって来たってのに、いきなり修羅場(?)っぽいし? 何をやっているんだあの博士は。
あいつ、生意気なガキだけどさ。だけど、苛めていいってわけないだろ? ……って。あーあ、泣きそうになってんじゃん。僕たちに対しては口が達者だけど、博士には敵わないって感じかな。そろそろ助け舟を入れる頃か? まあ、部外者の僕が口出しするようなことじゃないけどさ。
「それだけか? 私が散々言ってきたことをお前は忘れているな」
ちょっ、ちょっと待て? この人まさかSじゃないよね……? いや、この天才科学者がそんなわけな―――。
「ボ、ボクはハカセの……」
「何だって?」
「……ぐすっ。一生、ハカセのもの…です……」
Sだった―――――!!!!! しかもガキに何てこと言わさせるんだよッ!!
「それ以外は?」
「……ぇ?」
「フン、まあいい。約束を破った罰だ、そのまま家の中を一周してこい」
家の中一周ってアンタ、いったいこの家どんだけ広いと思ってんだよ?! そんなことしてたら日が暮れるわっ!!
「あ、あの、ハカセ……」
ここからじゃ中の様子が見えないから分からないけど、多分鈴は内心不安なのだ。その声はとてもおどおどしていた。
「何だ? 言い訳は許さないぞ」
「………はい」
―――これじゃあ出るに出れないなぁ。仕方ない、話を切り出すのはまた今度にするか。